ビジネス

2022.08.09 12:00

年間70万人が来店する「田舎の身近なディズニーランド」


店舗を訪れた家族客が、それぞれの興味関心や欲求に従って過ごし、ゆるやかに場所と時間を共有できる場をつくる。こうした顧客体験を独自の価値として前面に押し出すコンセプトを、同社は「MicroFamily Entertainment(MFE)」と名付けた。

キーワードは「地方」「身近」そして「家族みんながワクワクできること」だ。堀田は日本に根付いたグローバル企業を引き合いに出しながら、ホリタが埋めようとしているニーズを説明する。

「スターバックスは多くの人の身近にあって大人にとっては憩いの場ですが、子どもはワクワクしませんよね。公園の遊具は身近にあって子どもがワクワクするけど、大人にとってはそうでもない。ディズニーランドは大人も子供もワクワクしますが、残念ながら首都圏に住んでいる人でなければ身近にはないんです。これらをすべて満たすのが、MFEの価値です」


新店舗は福井県のなかでも屈指の人気を誇る武生中央公園に隣接。子育て世代の家族客を誘導しやすい好立地にある。

文具は誰にとっても身近な商材であり、ポジティブな投資の対象として社会的な合意形成があることもMFEの価値創出に寄与した。「特にお母さんたちにとって“ギルティフリー”な場をつくることができた」と堀田は感じている。

「子どもを連れて出かける機会がいちばん多い大人はお母さんというケースがまだまだ一般的。例えばお母さんがゲームセンターで子どもをひとりで遊ばせておいたとしたら、周囲に白眼視されるのではと心配になってしまうのが現実でしょう。でも、文具店には文化的・教育的な価値がある商材を扱っているという共通認識がみんなにあるのでそういう心配はしなくていい。そのうえで、大人の視点で生活が豊かになったり便利になったりするモノに触れることができるんです」。

結果的にホリタは、家族客を構成する複数の属性のニーズに応じた顧客体験を提供できるように店舗の役割を再定義したことで、集客アップに成功。「週末はホリタに行こうか」が地元の子育て世代の合言葉になりつつあるという手応えが堀田にはある。


無数の穴に鉛筆の端材を埋め込みクリエイティブな模様をつくって遊べる壁。店舗には子どもや親が楽しめる仕掛けがいくつも施されている。

また、1店舗あたりの商圏を8万人程度という小規模に設定し、各店舗を商圏が若干重なるほど近い距離に配置する出店戦略も大きなポイントだ。

「店舗同士の距離は6km程度にして、かつ生活道路沿いに出店するようにしています。ホリタをすでに知っている人が新店舗を覗いてみてくれることが多くなりますし、お客さんがその日の予定に合わせて店舗を使い分けてくれる。出店1年目は隣の既存店の売り上げが下がっても、2年目以降は既存店も新店舗も売り上げが上がる傾向が出ています」。
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文=本多和幸 写真=吉澤健太

この記事は 「Forbes JAPAN No.094 2022年月6号(2022/4/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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