ビジネス

2022.08.09 12:00

年間70万人が来店する「田舎の身近なディズニーランド」

3月12日開催の「第2回アトツギ甲子園」で最優秀賞を受賞した福井県のホリタ。

田舎の文具店は、いかにして週末に家族客が続々と集まるビジネスモデルを構築したのか。

中小企業の事業承継が重大な社会課題となるなかで、先代から受け継いだ経営資源を生かして新規事業に挑む後継者が全国的に増えている。

3月12日に東京都・港区で開催された「第2回アトツギ甲子園」(主催:中小企業庁)は、そんな「アトツギベンチャー」が大きなムーブメントとして立ち上がり、次代の日本をけん引していくという未来を予感させるものだった。新規事業アイデアを競う同大会で最優秀賞を受賞したホリタのストーリーからは、「地方」「中小」「アトツギ」の融合によるイノベーションの可能性を再認識させられる。


「アトツギ甲子園」は、新規性、実現可能性、社会性、承継予定の会社の経営資源を活用できているか、熱量・ストーリーの5点が審査基準。ファイナリスト15人がピッチに臨み、ホリタが最優秀賞を受賞した。



「地域密着型の文具店」と聞いて、そこにリテールビジネスの未来を見る人は少数派だろう。しかし、福井市を中心に6店舗を展開しているホリタは近年、来客数、売上高とも右肩上がりで、全店舗で黒字を実現している。従来の経営資産を生かした新たな価値創出をけん引したのが、創業家3代目の堀田敏史だ。直近の年間来客数は約70万人で、「福井県の人口は約76万人ですから、それに匹敵する数字なんですよ」と手応えを語る。




越前市の新店舗は子育て中の母親をメインターゲットに設定。文房具はもちろん、厳選したキッチン用品や生活雑貨を扱う。

ビジネスを支えているのは店舗での商品販売であることに変わりはないが、堀田は自社を「文具店だとは思っていない。エンターテインメントカンパニーになるという旗を掲げ、その旗を振り続けてようやくかたちになり始めた段階」と表現する。文具のメインユーザーである子どもだけでなく、一緒に来店した親をはじめとする家族が滞在時間を楽しめる場をつくり、集客力を高めたことが成長の秘訣だ。

具体的に、ホリタの店舗は何がスゴイのか。週末を中心に店舗内で開催している知育/アートのワークショップが、まずは子どもたちの関心を引きつける。金沢学院大学芸術学部と連携して独自カリキュラムを用意するという力の入れようだ。

大人向けには、家事に関する気づきを得られるようなキッチン用品・雑貨、最新のビジネス用品や高級筆記具などを幅広く揃え、デモンストレーションで商品のよさを体感してもらうコーナーも用意。子どもが知育玩具の使い方を学んだり、工作に取り組んだりしている間に、大人がリラックスして過ごすカフェを併設している店舗もある。
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文=本多和幸 写真=吉澤健太

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