「原発9基再稼働」で貿易赤字改善の可能性 脱円安はありうるか 

前回の記事では、円安による家計へのダメージを考えた際に、エネルギー価格の高騰を押さえ込むことができる「原発再稼働」も現実味を帯びてきていると言及した。7月14日には岸田文雄首相が冬の電力確保のため、最大9基の原発稼働を進めるよう、萩生田光一経済産業相に指示したと記者会見で語った。

この後、時事通信が15~18日に実施した世論調査で「再稼働の賛否」を尋ねたところ「賛成」が48.4%、「反対」は27.9%、「どちらとも言えない・分からない」は23.8%となり、賛成の多さから世論の関心の高さもうかがえる。

9基再稼働は「意味がない」は本当か


しかし、今回の岸田首相の再稼働の会見をめぐっては、電力会社が申請した25基のうち9基の再稼働が、原子力規制委員会の審査を通過した計画を追認したに過ぎないという見方がある。

つまり、新規の再稼働ではなく、既に決まっていた路線を発表しただけで、電力対策のアピールに繋がる“うまい表現に騙された”との考えだ。

確かに、今回の再稼働は西日本の施設であり、東日本が入っていない。電力の安定供給に最低限必要な予備率(電力需要に対して供給余力の余裕がどの程度あるかを示したもの)3%を下回っている東京電力と東北電力は、2023年1月には1.5%と深刻な電力不足が予想されている。東日本も含めて議論を進めるべきであって「9基では足りない」との意見も多い。

しかし、どうだろうか。これまで現役の総理が原発に対して明確にメッセージを出すことは考えにくい状況だった。それが足元のエネルギー価格高騰や円安進行、参院選勝利などの条件が整ったことで発言できた意味合いは大きい。継続的にメッセージを出せば、原子力規制委員会へのマインドにも影響を与えることになる。

今冬は夏よりも電力不足が深刻と予想されているため、日本の危機に対処した緊急の政策が必要なのは間違いない。

貿易赤字半減の可能性


原発再開によって貿易収支が改善する可能性についても考えたい。急速に進む円安の構造要因は、近年、国際収支における経常収支及び貿易収支の赤字が定着していることも1つである。
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文=馬渕磨理子 編集=露原直人

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