だが、クローガーは目標に向かって着実に前進している。
米国では、すべての食品のうち実に40%が廃棄される。重量にして毎年4500万トン、4000億ドル(約55兆円)に相当する。1200万人の子どもたちを含む3800万人の米国人が飢えに苦しむなか、これほどの食品を廃棄するのは恥ずべきことであり、食料品店にとっては死活問題でもある。
2800店舗を展開するクローガーでは、1400億ドルに上る年間売上高のうち4%、約56億ドルが食品廃棄物に相当すると推定されている。食品廃棄物の削減に積極的に取り組んでいる企業ですらこうなのだ。食料品店のなかには、「シュリンク」と呼ばれる食品廃棄物の割合が年間5~7%に上る企業もある。これが2桁になると、ふつうは企業として存続できず、買収されるか倒産するしか道はない。
しかし、食品廃棄物の削減や根絶にあたって、やっかいな阻害要因が一つある。食品廃棄は、企業利益の減少につながるため、内国歳入庁(IRS)がこれを税額控除の対象としていることだ。
「これは、企業のコストを政府が負担していることを意味する」と、投資会社フードリテール・ベンチャーズ(Food Retail Ventures)の創業者ジェームズ・マッキャン(James McCann)は指摘する。同氏はこれまでに、食料品チェーンのテスコ、カルフール、アホールドUSA(Ahold USA)のCEOを務めた経歴をもつ。
「基本的には、シュリンクのコストは、税額控除の対象となる。こうしたコストは、企業の限界税率(課税標準の増分に対する税額の増分)がどうであれ、利益を減少させるためだ」
世界を見渡すと、いくつかの国では、シュリンクの一部を税額控除の対象から外すことで、小売業者に対して食品廃棄物の削減を促している。「小売業者にとって、その威力は絶大だ」と、マッキャンは言う。
税務申告書に、食品廃棄物に関する項目はない。会計上は、企業の損益計算書に影響を与える要素の一つとして計算される。食品は、棚卸資産(在庫)として扱われる。その内容が「原料(raw materials)」にあたるからだ。
在庫が償却される際には、任意の会計期間ごとに食品原価(food cost)が発生する。この食品原価とは、在庫の残量と、食品の使用量に基づいて算出されるものだ。これが、消費された分として在庫から差し引かれる。
レストラン・外食産業における食品廃棄問題に取り組むリーンパス(LeanPath)の共同創業者でCEOを務めるアンドリュー・シャクマン(Andrew Shakman)は、「資金の流れを追うと、(食品廃棄物は)捉えにくい」と指摘する。「食品廃棄物という項目はどこにもない。在庫調整の一つとして抜け落ちてしまうのだ。食品が利用されて消費者のもとに届いたのか、それとも、利用されたがゴミになったのかは判別がつかない」