ここで計算する。FBIは244人の被害者を特定し、被害者らは計4270万ドル(約59億円)を騙し取られている。1人当たり平均17万5000ドル(約2400万円)だ。
被害者が金融リテラシーの低い低所得者であるはずがない。むしろ、銀行の上得意客、つまり投資資金を持っている人たちである可能性が高い。
「金融機関が暗号資産投資サービスを提供しているかどうかを顧客に知らせる」というFBIの助言は善意によるものだが、現在、こうしたサービスを提供している銀行はほとんどなく、そのため消費者は暗号資産への投資を他の手段(偽銀行など)に頼っているのが現状だ。
銀行は暗号資産投資サービスを提供すべきだ。なぜなら、消費者は銀行口座からの暗号資産投資を望んでいるからだ。
銀行の視点から見た暗号資産の不正行為の重要性は消費者の金融の健全性と安全性に関わるものだ。
今日においては「金融の健全性」は「金融リテラシー」や「金融ウェルネス」と同義だ。
しかしFBIの警告が示すように「金融の健全性」は「金融の安全性」でもある。金融リテラシーがない消費者だけでなく、投資するお金を持っている消費者にとってもそうだ。
銀行は金融の安全性を含む金融の健全性を再定義する必要がある
銀行の「金融の健全性」の定義はリテラシーやウェルネスに限定されるのではなく、金融の安全性を含むように再定義されるべきだ。
金融の安全性とは、暗号資産詐欺の防止だけでなく、より広範なものだ。個人情報の盗難やデータ流出といった脅威も含まれる。
詐欺や個人情報漏洩の防止に対する銀行の一般的なアプローチはさほど効果的ではない。
・信用情報のモニタリングは万能ではない。多くの人は、借り入れの予定がないために信用情報をロックしている。また、情報漏えいの被害に遭い、信用情報ではなく、預金口座の不正開設のリスクが高くなった消費者もいる。信用情報のモニタリングは、ID盗難や詐欺の大部分を占める預金口座の詐欺や既存の口座の詐欺には役に立たない
・個人情報盗難保険は支払われない。おおよそ100万〜1000万ドル(約1億4000万〜14億円)の個人情報盗難保険の保険金が支払われることはほぼないと規制当局は指摘する。米会計検査院(GAO)の調査で「一部のID盗難サービスプロバイダーは、ID盗難保険は消費者にとって限られた価値しかなく、100万ドルの限度額に近い損失補償はおおよそあり得ないことを認めている」ことが明らかになった
・ダークウェブの監視には限界がある。ダークウェブに関する最近の監査では、ダークウェブには10万件の侵害で盗まれたログイン情報が150億件あると推定されている。しかし、すべての漏洩データがダークウェブで見つかるわけではない(米医療保険会社アンセムの漏洩が良い例だ)。また、ある日ダークウェブで見つけたデータが翌日には存在しないかもしれない
金融の安全上の脅威に対処できるよう消費者を支援することは、今日の市場において金融機関に競争上の優位性をもたらす可能性がある。