NYタイムズも注目、日本にこだわる米出版社の「歌川広重」本

ニューヨーク・タイムズ(Web版)、Hiroshige’s Japanのスライドページ

ニューヨーク・タイムズ(Web版)、Hiroshige’s Japanのスライドページ

米タトル・パブリッシングは、アジアのアート、言語、文化をテーマとする英文書籍を出版し続ける老舗の独立系出版社だ。

この6月、同社社長のエリック・オゥイ氏が、Forbes USの取材に答えて次のように話している。

「米国では数百の書店が新規開店していて、小さな独立系出版社が伸びている。実は世界で売れている書籍の実に3分の2は、独立系小出版社から刊行されたものなのです」

多様性の時代に強いのは、実は「独立系小出版社」


オゥイ氏はさらに続ける。

「書籍市場は文字通り多様で、いわゆる超人気作家のベストセラーは、実は米国の書籍市場全体においては売上げの多くを占めているわけではないのです。

平均的な書店では1万から2万種類の書籍を陳列していますが、これは同じく平均的なスーパーが扱う食材の種類が2000から4000なのに比して、実に驚くべき品目数ですよね。

そんな超多様性を誇る環境の中で、小出版社はニッチな市場を熟知している上で有利だし、より個人的で密であることが多い作家との関係も、良書や話題書を作る上では好条件になり得るんです」

『広重の日本』がニューヨーク・タイムズ書評欄に


そんなタトル社が2021年12月に刊行した「JAPAN: On the Trail of the Great Woodblock Print Master(タトル・パブリッシング、29.99ドル)」が米国で静かな話題になっている。

本書のテーマは、300年にわたる江戸時代を通じて東京と京都をつなげるもっとも重要な道だった「東海道」、現在ではほとんど様変わりしてしまっている、あの往年の名街道だ。

著者はフランス人水彩画家フィリップ・ドゥロー。江戸時代の浮世絵師歌川広重の木版画シリーズ「東海道53次」に描かれた各宿場に実際に立ち寄り、そこで自作の絵画を創作していく。


「JAPAN: On the Trail of the Great Woodblock Print Master」の著者、フランス人水彩画家 フィリップ・ドゥロー氏の作品

米ニューヨークタイムズ紙(Web版)は5月27日の書評で、次のように書く。

「著者はバイクで東海道を走り、53各々の宿場で、現代の産業化された世界と広重の世界との対比を水彩画で浮き彫りにしてみせる。そして著者は、テキストでも広重の木版画の解説をしながら、日本の過去と現在に思いをはせるのだ。

読者もこの伝説的な街道について、ふかぶかと考えずにはいられない。視野を広く遠く持つと、われわれをとりまくこの世界がほんの一瞬にして変化してしまう、そのことがわかるからだ」



「東方の小国」日本の、大部分の西洋人が知らない画家「歌川広重」の足跡をフランス人画家がなぞって創作、執筆。その著書に米国の大手メディアが注目しスポットを当てる。まさに多様性の時代を象徴するできごとかもしれない。

著者との距離の近さ、「アジアのアート」というニッチな中でもニッチな市場を熟知していることを誇る、タトル社の「ブックス・オン・ジャパン(日本に関する書籍)」。その刊行企画が今後どんな広がりを見せていくのか、注目してみたいと思った。

文=石井節子

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