とはいえ、こうした日々のやりとりで、人にうまく影響を与え、肯定的な結果へとつながる行動へと導くには、どうすればいいのだろうか。
筆者がホストを務める、交渉をテーマにしたポッドキャスト番組「Negotiate Anything」では、エール大学経営大学院の教授で著作も多いゾーイ・チャンス(Zoe Chance)を迎え、自分が持つ「素晴らしい影響力」を引き出す秘訣について話を聞いた。
魔法の質問
チャンスによれば、職場や日常生活において、(特に、協力して問題解決に臨まなくてはならない場合に)会話の力関係を一変させる「魔法の質問」があるという。それは、「どうすれば、私たちはこの問題を解決できるのだろうか」という問いかけだ。
個別の会話の内容や文脈に応じて、具体的な文章は少しずつ違うだろうが、この質問が持つ大事な意味は、「一緒に問題を解決しよう」と働きかける姿勢を示すことだ。この質問を投げかけことで、「私 vs あなた」から、「私とあなた vs 問題」という構図に変化する。
多くの人は、「失敗した責任」を問われ、叱責されることを嫌う。また、一方的に指示されて自分の意見を述べるチャンスがないことに不満を持つ人たちも多い。一般的に言えば、人は、有能な人間だとみられることを望んでいる。問題の存在を認識して、それを克服できる人間だと思われたいのだ。
この点について、チャンスはこう述べる。「魔法の質問を投げかけることによって、対立する姿勢が一変し、創造力を活かして問題を解決していこうという気持ちが起きてくる」
リーダーへのアドバイス
職場におけるリーダーにとって重要なのは、自分の下で働くチームが、自分が望む特定のかたちで仕事を遂行するよう影響を与えることだ。とはいえ、そうしたやり方はしばしば、部下たちに、不満や、監視されているような気持ちを生じさせる。
そうした状況を避けるために、チャンスがリーダーに勧めているのが、従業員のパフォーマンスを批判したくなったら必ず、例の魔法の質問をすることだ。
その理由のひとつは、こうした批判が、相手の従業員の良いところや、これまでの業績を見過ごすことにつながり、不公平(で非生産的)になってしまう場合があることだ。相手なくしては、ともに問題を解決することはできない。
例えば、あるマネージャーが、遅刻魔の従業員と、その対策を話し合おうとしているとしよう。そんなときは、膝を突き合わせて向かい合い、遅刻やその影響についてくどくどと説教するよりも、次のように質問したほうがいい。「今月、1日も欠かさず時間通りに出勤するには、どうしたらいいだろうか」と。
チャンスによれば、リーダーはまた「度が過ぎるくらい寛大(unfairly forgiving)」であるべきだという。実践するのは難しいかもしれないが、過剰なまでに寛大な姿勢を見せれば、従業員のロイヤルティ(忠誠心)が強まるというかたちで報われるだろう(従業員のロイヤルティは、職場の文化と会社の業績に直結する)。