App Storeは、iPhoneにアプリを入れて機能を拡張するための窓口となっており、iPhoneユーザーがアプリを無料もしくは有料でダウンロードする「場」だ。そのアプリを提供しビジネスを行うのが開発者となる。
App Store以前の、デバイス販売中心のアップルのビジネスの発想でいえば、アップルが開発者からアプリを仕入れ、これをiPhoneユーザーに販売する一方通行のモデルであり、開発者はサプライヤーやパートナーという位置づけだった。
しかしシラーが担当になったことは、開発者もまた、アップルにとってはサプライヤーではなく、マーケティングする対象である「顧客」になったことを意味する。
WWDCに、アップルの時価総額3兆ドル達成のヒントがある
iPhoneユーザーが増えれば増えるほど、開発者が集まってビジネスに参加してくれる。良質なアプリがいち早くiPhone向けに集まれば集まるほど、iPhoneユーザーが喜び、また増えていく。その間でアップルは、販売手数料の15〜30%のプラットフォーム提供料を徴収するのだ。
これは、シリコンバレーのビジネスの勝ちパターンとして認知されている「マルチサイドプラットフォーム(Multi-side Platform)」というビジネスモデルそのものだ。BtoBtoCや、MSPなどといわれるプラットフォーム戦略は、二つの役割双方にとってプラスの循環を作り出し、場の提供とマッチングを通じて手数料を徴収する、継続的な成長モデルとして知られている。
アップルは、プラットフォームとしてのApp Storeを挟んで、ユーザーにはiPhoneの機能やデザイン、ブランドの向上を通じて喜んでもらい、他方の開発者に対しては、ニーズを拾い、ソフトウェアや開発環境の向上を通じて、より新しいアイデアを実装できるようにする。
このモデルの成立によって、もともと時価総額競争で期待されていなかったアップルは1兆ドル、2兆ドル、3兆ドルまで一番乗りするほどに、企業価値を高めることができた。WWDCでの開発者との対話は、結果として、時価総額3兆ドル達成の一翼を担っていたのだ。
新OSの狙いとアプリの未来
アップルはWWDC2022の基調講演で、開発者に対して、9月にリリースされ、順次新機能が追加されていく新しいソフトウェア群を披露した。iPhone向けiOS 16、iPad向けiPadOS 16、Apple Watch向けwatchOS 9、Mac向けmacOS 13 Venturaを発表し、アプリ開発者が作ったアプリが今後どんな環境で動くことになるのか、またどのような新しい技術を活用できるようになるのか、情報提供を行うのが目的だ。