自費出版ながら、売れ行きで「ハリーポッター」を抜いた日も
──出版まではどうやってこぎつけたのか。
自費出版として出版したが、2人で書いたものをそのまま本にしたわけではなくて、プロの編集者に手を入れてもらう手間を挟んだことで、ぐっと読みやすくなったと思う。自分たちがいいと思うビジネス本を手がけた編集者にコンタクトして、3カ月くらいかけて構成や表現などをブラッシュアップしてもらった。編集者の力と影響力は本当に大きいから、本来、表紙に編集者名を入れないといけないんじゃないかと思うくらいだよ。
『Time Off』のページから
私は東京、ジョンはテキサス・オースティン、編集者はアメリカのコロラド州にいて、3拠点で1冊の本に取り組んだ感じだね。共著者のジョンと合意できなかった部分も、編集者のアドバイスで大きく変更できた。
──自費出版の本を成功させるために取り組んだことは。
発売日は2020年5月25日で、コロナがまさに広まっている時期で、印刷会社の工場が閉鎖されたりと、いろいろ難しい問題があったけれど、なんとか発売にこぎつけた。発売前に、インフルエンサーなどに無料で数百冊の本を提供して、取り上げてもらうよう努めたことなどから、発売後、アメリカのアマゾンの数カテゴリーでベストセラーに、日本のアマゾンの洋書の特定のカテゴリーでトップ、1日だけはハリーポッターを抜いたことを誇りに思っているよ(笑)。
オリジナルの英語版のほか台湾語、中国語、韓国語版も出版されている。また日本語版も目下翻訳中で、2023年に出版される予定だ(クロスメディア・パブリッシングより刊行予定)。
──日本の読者に向けてのメッセージは。
日本に住んで7年になるので、日本では長時間労働が問題となっていることは認識している。でも、立ち止まって振り返ってみて欲しいのが、「忙しい」フリをしていないかということだ。忙しく見えるようにしているだけで、実際は生産的ではないことが結構あるんじゃないかと思う。そのフリをやめれば、休む時間を確保しながら、価値のある仕事に集中できるようになっていく。
文化的にもこうした変化が簡単ではないことは理解しているが、新しい流れもある。例えば、日本でも週休3日制を導入する会社なども出てきている。1日少なく働くというのはすごく大きな変化だと思う。大きすぎる変化はうまく着地できなかったり、個人レベルで実現するのは難しかったりすることが多いので、まず小さいことから始めるのがいいんじゃないかと思う。
例えば、即レスが必要ない場合はすぐにメールに返信しないとか、コーヒーを淹れる時間を持つとか、頼まれたこと全てに「はい」と言うのではなく「いいえ」といえるように訓練する、など、自分の時間を守るために小さくてもいいから何かを変えてみるのが、最初のステップだと思う。
一方で、私は日本のビジネスリーダーや人事の人たちとも話をする機会がある。個人からだけではなく、社会や組織の期待値が変わっていくことが効果的だと思うので、リーダーシップこそが休みをとることの重要性を理解して、実践することが大きな一歩になるのではないかと期待している。
Time Off(John Fitch/Max Frenzel著、Mariya Suzukiイラスト、2020年5月、Time Off LLC刊)
高以良潤子◎ライター、翻訳者、ジャーナリスト。シンガポールでの通信社記者経験、世界のビジネスリーダーへの取材実績あり。2015年よりAmazon勤務、プログラムマネジャーとして、31カ国語で展開するウェブサイトの言語品質を統括するなど活躍。2022年より米国系大手エンタメ企業勤務。