ビジネス

2022.05.26

藤原ヒロシと音楽とNFT 新たなプロジェクトABCRECORDSとは

藤原ヒロシ


音楽著作権が複雑、かつ争点になりやすいのは、アーティストが思いを込めた大切な作品だからというのももちろんだが、音楽を販売するのはそれなりのコストがかかることだったというのが大きい。

レコーディングスタジオを借り、バンドを入れ、CDを製作し、全国のショップに展開する。アーティストはレコード会社と契約してその費用を負担してもらい、レコード会社が投資と引き換えに権利を得るという構造だった。

しかし、テクノロジーの進化で、聴く側だけでなく、作る側の環境も大きく変わった。極端にいえば作曲から配信まで、iPhoneひとつでできてしまう。そうしてCDの売り上げや印税を前提としていたビジネスモデルが崩壊する中、権利に関する仕組みは旧態依然としている。

「印税ビジネスもいいけれど、権利の管理会社を通すと、自分の楽曲も好きに使うことができない。自由がなくなってしまう。僕はもっとカジュアルに、Tシャツを売るように音楽を売りたい」

藤原ヒロシ

ABCRECORDSでは、制作した音源を「売り切ってしまう」。一部手続きは必要ではあるが、購入後にどう使おうと自由。それは、藤原がインディーズ時代にやっていたやり方でもある。

例えば、今回、藤原の楽曲を10曲買った人は、それでアルバムを作り、商売をすることもできる。あるいは、購入した楽曲にラップをのせて配信することもでき、その場合は、煩雑な許諾作業なく、事前に決められれたロイヤリティーが藤原に按分される。このプロジェクトでは、可能な限りのハードルを下げることで、ひとつの楽曲から創作が派生していくことを望んでいる。

新しいアウトプットのカタチに


“夢の印税生活”時代を知る世代は守りの意識が強いが、音楽著作権に対する考え方には世代間ギャップがあり、若いアーティストは藤原と感覚が近いという。

「それはそれ、という考え方をしていますね。例えば、今作っているデモトラックの一部を売るとか、リアレンジしたものを売るとか。有名なアーティストに楽曲を提供している人が、自分のプロジェクトとして参加するとか。自由に使われることに賛同できるミュージシャンにとっては新しいアウトプットの方法になるんじゃないかな」

売れた後に莫大に儲かる可能性は低いかもしれないが、売れた分の収入は着実に入ってくる。「絵描きが作品を手売りするみたいな。実はそういうお金の動きって音楽の世界にない」と藤原は補足する。
次ページ > ABCRECORDSに込めた意味

編集=鈴木奈央 写真=小田駿一

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事