遠隔医療は、医療へのアクセス格差を小さくする進歩とうたわれることが多い。しかし、ヒューストン大学医学部の研究者らが主導した新たな研究では、パンデミック開始からこれまでの全体を通じて見ると、そうとは言えないことが示唆されている。
「人種・民族の格差が根強いことがわかった」と、研究論文の筆頭著者オモロラ・アデポジュ(Omolola Adepoju)は述べる。「そうしたことから、医療と健康転帰における遠隔医療のプラスの影響は、サービスを受けにくい層には届かない可能性があると考えられる」。アデポジュは、医学の博士号と公衆衛生学の修士号を持ち、ヒューストン大学医学部の臨床准教授と同大ヒューマナ総合健康科学研究所(Humana Integrated Health Sciences Institute)の研究責任者を務めている。
「ジャーナル・オブ・ジェネラル・インターナル・メディシン(Journal of General Internal Medicine)」で発表されたこの研究では、2020年3月から11月にかけて集められたテキサス州の55の診療所の診療記録データを使用し、患者6万7766人の25万回近い診療が分析された。
その結果、アフリカ系米国人は白人に比べて、遠隔医療の利用率が35%低いことがわかった。ヒスパニック系の遠隔医療の利用率は白人と比べて51%低く、アジア系やネイティブアメリカン/アラスカ先住民/太平洋諸島系も利用率が低かった。
この研究の結論によれば、そうした格差にはいくつかの要因があるという。その一例が、遠隔医療の予約に必要なテクノロジーを利用できないことだ。
「プライマリ・ケア提供者へのアクセスを切実に必要とする人が、テクノロジーを持たなかったり、その使い方を知らなかったりするせいで、(遠隔医療から)切り離されてしまう可能性がある」とアデポジュは述べ、白人世帯の79%がインターネットのブロードバンド接続を利用できるのに対し、アフリカ系世帯では66%、ヒスパニック世帯では61%である点を指摘した。
この研究では、保険未加入者やメディケイド(低所得者などを対象とする公的な医療扶助制度)の対象者も、遠隔医療の予約をしにくいことがわかっている。また、18歳未満の若者や高齢者も、中年層に比べて遠隔医療の利用率が低かった。ただし、診療所から離れた場所に住んでいる人ほど遠隔医療の利用率が高く、この傾向はアフリカ系やヒスパニック系の患者にもあてはまることも明らかになった。
「地理的な距離との相関性が見られ、遠くに住んでいるほど、遠隔医療の利用率は高かった」とアデポジュは述べた。
パンデミックに伴う制限が緩和され、一部の患者は対面診療への復帰を選んでいるものの、遠隔医療は今後も多くの人に提供される可能性が高い。遠隔医療を利用できるように、患者がサポートを受けられることが望ましいとアデポジュは考えている。
「診療所に必要なのは、技術サポートシステムだ。診療前に、患者とともにデバイスや接続をテストするスタッフがいれば、患者が遠隔医療を最大限に活用し、医療の選択肢を利用する助けになるはずだ」とアデポジュは述べている。