ロシア政府のプロパガンダ戦略、「子ども重視」がより鮮明に

ウラジーミル・プーチン大統領(Photo by Kremlin Press Office/Handout/Anadolu Agency via Getty Images)

ロシアには、ウクライナに侵攻する以外の選択肢がなかった──。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は先ごろ国内で放送されたテレビ番組のなかで、また“うそ”を繰り返した。ロシア語を話すウクライナ東部の住民たちに対するジェノサイドを止めるためには、侵攻は避けられなかったというのだ。

ロシア国営タス通信によると、タウンホールミーティングの形を取ったこの番組には、12歳の少女をはじめとする若者たちとプーチンが出演した。その中でのこの少女とプーチンのやり取りは、ロシア政府が「プロパガンダ戦争」におけるターゲットを、子どもたちを含む若い国民にまで拡大していることを改めて浮き彫りにしている。

少女はウクライナ東部ルハンシク州で生まれ、2014年にロシアが併合したクリミア半島に家族で移住したという。少女がロシアへの忠誠を誓って自ら書いたという詩を朗読した後、プーチンは冒頭の発言に加え、さらにこう語った。

「ウクライナ東部のドンバス地方で起きている“悲劇”のために、ただ“やむを得ず”、侵攻を命じたのだ」

米紙ニューヨークタイムズは、この少女の考えは、「ウクライナ東部の住民は、本当はロシア人なのだ」というプーチンの主張に基づいたものだと指摘している。

ロシアの通信社インタファクスによると、この番組が放送されたのと同じ日、ロシア教育省は、「9月1日(に始まる新学期)から、ウクライナ侵攻に関するロシアの公式な説明について、学校で教える」と発表した。また、すべての学校では新学期から、毎週月曜日に国歌斉唱と国旗掲揚を行うという。

独立系ニュースサイト、メドゥーザが伝えたところによると、ロシア教育省は教師たちに新たな指導要領を配布。「ウクライナ侵攻は東部で行われているジェノサイドに対応するためのものであり、戦争は起きていない、平和のための“特別な軍事作戦”が行われているだけだ」と教えるよう指示している。

「偽情報」流せば禁錮刑


ウクライナへの侵攻を開始して以来、ロシア政府は情報統制を強化してきた。刑法の新たな規定の下、「戦争」について政府の見解と異なる内容を伝えることは違法行為とみなされ、禁錮刑が科されることとなっている。この法改正を受け、ロシアで活動していた独立系のメディアはほぼすべて、閉鎖に追い込まれた。

一方、ロシアの教員の中にも、政府の方針に従うことを拒否し、退職したという人がいる。社会科の教師だったアンドレイ・シェスタコフはウクライナへの侵攻開始後、SNS上で公開されていた教育省のシンボルマークが入った複数のファイルを見つけた。

ロイター通信が先ごろ報じたところによると、それらのファイルには、侵攻やウクライナの歴史を子どもたちにどう教えるかについての指示が記載されている。内容は広範にわたり、戦争を正当化するためにロシア政府が発表してきたうそも含まれている。ウクライナという国の歴史やその存在に疑問を投げかけたり、ウクライナにはナチスが存在すると主張したりする記述もあるという。

シェスタコフはロイターに対し、このファイルに記載された指導要領に従った授業を行わなかったこと、生徒たちの前で、戦争には反対だという自らの考えを明確に語ったこと、その後、地元の警察に呼び出され、取り調べを受けたことなどを明らかにしている。

編集=木内涼子

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