「わたしに言わせれば、プーチンは『都合のいい関係』をいつも弄してきた人物です」。こう語るのは、1990年代にバンク・オブ・アメリカのロシア法人社長を務め、オリガルヒに関する著作を執筆中のデヴィッド・チャールズ・リンゲルバックだ。「彼は相手とこうした関係を結んでは、気に入らなくなると捨ててきました」
リンゲルバックによると、プーチンの真の盟友で、1990年代に彼が「富へのはしごに足をかける」手助けした大富豪であるユーリー・コヴァリチュクとアルカディ・ローテンベルク、ボリス・ローテンベルクは、ロシアがウクライナのクリミアを併合した2014年にすでに制裁対象になっている。それ以外のビジネスエリートについては、大統領との関係の近さを主張している者も含めて、プーチンは「概して関心がない」という。
こうした冷淡さは、プーチンが2月24日に行った財界幹部らとの会合の様子からもうかがえる。そこではプーチンが一方的に話し、退席した。出席した大富豪たちは誰ひとりとして、質問はおろか、ひと言も発言を許されなかった。
「そもそも、彼ら(オリガルヒ)を富豪という地位につけたのは彼(プーチン)なのです」。ハーバード大学ロシア・ユーラシア研究センターのアレクサンドラ・ヴァクルー所長はそう述べたうえで、プーチンにとってオリガルヒは「結局、経済を動かし続けることを求められた使用人」にすぎないと解説する。
今後、ウクライナを支援する国々の措置によってロシア経済が麻痺することになれば、こうした「使用人」はたんに目障りなだけの存在になるだろうともヴァクルーは予想する。
プーチンと大富豪との関係では、2003年のミハイル・ホドルコフスキー逮捕が転機だったとみるのは、ウェズリアン大学のピーター・ラトランド教授だ。反プーチン派の野党に献金していたホドルコフスキーは、脱税などの罪に問われて収監された。彼は当時、フォーブスの推定で資産額37億ドル(現在のレートで約4370億円)とロシアでもっとも裕福な人物だった。
30年以上にわたってロシアを研究してきたラトランドは、いまから振り返れば、プーチンはホドルコフスキーの逮捕を境に、経済よりも安全保障を優先させるようになったことがわかると話す。ウクライナ侵攻はそれをさらに進めたもので、プーチンはもはや「経済的な利害は基本的に気にかけていない」と分析する。