オリガルヒ制裁にほくそ笑むプーチン

Photo by Antonio Masiello/Getty Images


プーチンはオリガルヒに対する国際的な制裁を、彼らに対する自身の影響力を強める方策と考えているのではないかという見方もある。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校のダニエル・トレイスマン教授(政治学)によれば、プーチンは制裁が加えられれば大富豪がますます自分に依存するようにロシアの経済システムを構築してきた。「ロシアのオリガルヒはプーチンに依存しています。彼の許可がなければ、この国で大金を稼ぐことはできないからです」とトレイスマンは言う。

長年、オリガルヒによる資産売却では、ルーブルをドルに換えてロシア国外に移すのが定石だった。自国通貨よりも安定した通貨を用いて、投資先の分散や資産の保全をはかるためだ。だが、外国で利益をあげる道がふさがれると、オリガルヒはロシア国内の事業を強化するほかなくなる。こうして「ロシアの国際的孤立とオリガルヒの富の減少は、オリガルヒに対するプーチンの影響力の増大をもたらす」(トレイスマン)ことになる。

苦境に陥ったオリガルヒが不良化した資産を次々に売りに出す。プーチンの新たな仲間の一群がそれを買い叩く。彼らは当然、プーチンに恩義を感じるようになる──。サウスカロライナ大学のスタニスラフ・マーカス教授(国際ビジネス)はそんな展開もあり得ると話す。そうした資産の買い手は「法執行機関にいるプーチンの取り巻きたち」になるだろうとも予想する。

一方、制裁がプーチンにプラスにはたらくという見方に同意しない向きもある。ロシアの政権の内部メカニズムに通じた筋は、プーチンはオリガルヒが富をロシア国内に移さざるを得なくなるのを好ましいと思っているかもしれないが、オリガルヒ側はロシアの対外アクセスが制限されるようになると大統領の立場も弱体化するとみていると明かした。デリケートな話題だとして匿名を条件に取材に応じた。

プーチン批判で知られる米国の投資家で、プーチンはロシアの主要オリガルヒとの間で富を折半する約束を交わしていると主張しているビル・ブラウダーは、制裁はプーチンがウクライナでの戦争を続けるのに必要な資源を枯渇させるうえで、「大きな役割」を果たす可能性があると述べている。カーネギーメロン大学ハインツカレッジのサラ・メンデルソンも、制裁はプーチンの政権基盤を「脅かしている」との見解を示している。

もちろん、プーチンの考えていることを正確に知るのは不可能だ。ウクライナを支援する国々は、制裁の圧力によってプーチンが方針を変え、暴力を止めることを期待している。だが、クレムリンからのシグナルは、プーチンがこうした制裁を意に介していないことを告げているように見える。

編集=江戸伸禎

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