人間だって、循環の一部。「The 北海道」の男たち

放送作家・脚本家の小山薫堂が経営する会員制ビストロ「blank」では、今夜も新しい料理が生まれ、あの人の物語が紡がれる……。連載第18回。


12月30日、『倉本聰×小山薫堂 妄想ふたり旅』がJ:COMにて放送された。第3回となる今回の旅先は北海道。倉本さんの代表作であるテレビドラマシリーズ『北の国から』の舞台だ。

まずは富良野にある倉本さんのアトリエで待ち合わせ、帯広の「エルパソ豚牧場どろぶた」や阿寒摩周国立公園近くの「あかん遊久の里 鶴雅」などを訪ね、標津町に移動して日本で唯一の羆(ひぐま)猟師と会い、最後は知床半島クルーズに。倉本さんが「どうしても見せたい」という番屋(漁師の待機小屋)を船先から眺めた。

そもそも僕が北海道を好きになったのは大学時代に見た倉本さんのドラマの影響だ。北海道に行ってみたいという思いが募り、「あなたにとっての普通の暮らし(幸せ)は何ですか?」をテーマにした卒業制作では、帯広のソーセージ職人・平林英明さんを1年かけて取材している。

取材は冬からスタートし、季節ごとに年4回、帯広へと赴いた。大きなカメラやレコーディング機材は学校から借り受け、ビデオ編集はスタジオを借り、テロップは写植業者に1枚400円で発注し、挿入曲は知人のピアノ演奏を使用。製作費は約200万かかった。飛行機代くらい浮けばいいなと考え、いまはなきTDA(東亜国内航空)に売り込みにも行った。北海道で気球を飛ばすシーンがあったので「そこにロゴを露出しますから」などと説得したのだが、残念ながら撃沈。結局、父から200万円を融通してもらった。そうしてでき上がった僕の最初の映像作品『普通の生活』は学部長奨励賞を受賞。苦労が報われたし、素直にうれしかった。

前置きが長くなったが、今回倉本さんと訪れた帯広の「エルパソ豚牧場どろぶた」は、平林さんが経営している牧場だ。「自分がつくるソーセージの肉を誰がつくっているかわからないのはおかしい」と考え、2001年より東京ドーム5.5個分の広大な森の中で放牧豚を始めた。

実は「どろぶた」とネーミングをしたのは僕だ。倉本さんのドラマに心酔したことをきっかけに平林さんと知り合い、平林さんは僕と知り合ったことで「どろぶた」という彼にとってのライフワークが誕生した。人と人のつながりが幸せをつくる、その最初と最後の点を今回ようやく結ぶことができて、僕は感無量だった。
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写真=金 洋秀

この記事は 「Forbes JAPAN No.090 2022年2月号(2021/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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