ビジネス

2022.02.10 07:30

20年も前にサブスク変革。メニコンの発想力と「神の声」

メニコン取締役兼代表執行役社長 田中英成

コロナ禍で笑った企業、泣いた企業があるとしたら、メニコンは“泣かずに済んだ”企業だろうか。視力の低い人にとってコンタクトレンズは必需品だが、家ではメガネで代替するユーザーも多い。メニコンもステイホームの影響で、国内のコンタクトレンズ・レンズケアの物販は前年比8.9%の減収となった(2021年3月期)。

ただ、国内売り上げはマイナス2.2%と踏ん張った。国内売り上げの約6割を占める定額制サービス「メルスプラン」が会員数を増やし、2.4%の増収だったからだ。国内市場で踏みとどまり、一足先にコロナ禍から回復した中国市場が伸びたことで売上高は過去最高に。環境に左右されにくいサブスクリプションモデルの強さが浮き彫りになった。

メニコンがメルスプランをスタートさせたのは、いまから20年前。発案者は、当時取締役だった2代目社長の田中英成だ。

「経理の会議に出席していました。倒産した取引先の債権回収をどうするのかという話だったから、どうも面白くない。ボーッとしていたら、突然、『お金の流れを逆にしなさい』と神の声が下りてきた。それで生まれたのがメルスプランです」

ひらめきを神の声と表現した田中だが、その神様はMBAを取得していたのかもしれない。ユーザーが販売店に代金を支払い、販売店は仕入れ時にメーカーに代金を払うという従来の流れに弊害が現れ始めたのは90年代。デフレを受けて販売店が値引き競争に走り、それがユーザーの健康被害やメニコンのブランド価値毀損を招いた。田中は、メニコンがユーザーと直接契約してお金をもらい、商品とサービス提供の手数料としてメーカーから販売店にお金を渡すことを発案。この流れなら、販売店から在庫が消えて収益性が上がり、ユーザーに質の高いサービスを提供できるようになる。

サブスクが浸透したいまなら違和感がないビジネスモデルだが、当時は理解されなかった。田中は「全員がアンチだった」と振り返る。

「部下に事業化を指示しましたが、なかなか進まない。『検討中です』は『何も考えていない』、『難しい』は『やりたくない』だと、2年たってやっと気づいた(笑)」

らちが明かないと感じた田中は、父に社長交代を直談判。実権を握ると、トップダウンでメルスプランを事業化した。最初は渋々従っていた社員たちも、顧客の好反応を見て意識が変わった。以来、会員数は増え続け、同社の屋台骨を支えるサービスへと成長した。

さらに会員数を伸ばすため、「SMART TOUCHのワンデータイプをメルスプランでも強化する」。SMART TOUCHはレンズ凸面を上にしてパッケージして凹面(内側)に触れずに清潔に装着できる独自技術。凸面を下にしていた業界の常識を、文字通りひっくり返した。
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文=村上敬 写真=苅部太郎

この記事は 「Forbes JAPAN No.088 2021年12月号(2021/10/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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