ビジネス

2022.02.10 07:30

20年も前にサブスク変革。メニコンの発想力と「神の声」


柔軟な発想のもとはどこにあるのか。田中は「いじめられっ子だったからじゃないかな」と明かす。

「親が経営者で、悪い意味で目立っていました。友達はいなくて、いつもひとりか年下の子と遊んでいた。だから自分でルールを考えてアナログなゲームをつくっていました」

中学時代はラジオDJに憧れて、オリジナル番組を妄想してはテープに吹き込んでいた。勉強はサボったり、趣味に生きるタイプ。3浪して医大に進学したのも、夢や志があったわけではなく、成り行きだった。

本気になったのは、メニコンに入社後、直営店に併設するかたちで眼科を開業してからだ。

「眼が傷だらけの患者さんが多くて驚きました。コンタクトレンズを見せてもらうと真っ白。洗浄していなかったり時間や期間を守らずに使用していたために、レンズが劣化して眼を傷つけていたのです。患者さんがこのような使い方をしていた背景には、とにかく安ければいいいう売り方があった。眼の健康を第一に考えるなら、ビジネスモデルから考え直す必要がある。そう悩み続けて半年ほどたったとき、会議中にふと聞こえてきたのが神の声でした」

今年4月、田中は業界をまた騒然とさせた。近視進行抑制の分野で、ジョンソン&ジョンソン ビジョンと業務提携を発表した。今後、この分野は世界で成長が見込まれ、開発力に優れたメニコンと世界的なネットワークを持つ企業との提携はシナジーが期待できる。しかし、両社は国内でシェアをめぐって火花を散らすライバル同士。提携は今回が初めてだ。

「この市場はまだ小さく、マーケットを育てるという点で利益は共通している。共通の利益があれば、長年のコンペティターも敵ではない」

田中へ戦略をささやく神に、どうやら、業界の禁忌はないようだ。


たなか・ひでなり◎愛知医科大学医学部卒業後、眼科医を経てメニコンへ入社。「メルスプラン」を生み出し40歳で社長に就任。成長の基盤をつくり東証・名証一部へ上場を果たす。文化芸術の分野を積極的に支援し自らも脚本を書き受賞歴もある。

文=村上敬 写真=苅部太郎

この記事は 「Forbes JAPAN No.088 2021年12月号(2021/10/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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