「富獄三十六景」は北斎72歳の作。ネットワーク科学が弾き出した『成功と年齢の関係』

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創造性は有効期限なし?


バラバシ博士は、「創造性には有効期限がない」良い例として、生涯絵への情熱を失わなかった葛飾北斎にも触れている。北斎は人生の晩年にさしかかってもなお傑作を生み出し続けたことで知られる。89歳まで生きた北斎は晩年の二十年間に最も優れた作品を残したが、著名な作品「富嶽三十六景」は彼が72歳のときに描かれたものである。死ぬまで絵画への情熱を失わず描き続けた北斎の姿勢に共感する同博士もまた、自身の年齢と、これまでに築き上げた名声をものともせず、こんこんと湧く好奇心と興味にかられて新たな研究に挑み続けている1人だ。

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2017年1月10日、大英博物館にて(Carl Court/Getty Images)

同博士は旧ソ連下で共産体制だったルーマニア出身で、大学生の時に父親とともにハンガリー・ブタペストに亡命した。ルーマニアは現在でも一部ハンガリー語を母語とする地域があり、同博士はそのトランシルヴァニア出身だ。ブタペストでは、ルーマニアではアクセスできなかった物理学者のネットワークに加わる幸運に恵まれた。それが縁で、アメリカに渡って博士号を取得。その後、ネットワーク科学に舵を切って研究者としての名声と成功を手にした。

彼自身の成功はハンガリーへの亡命後に道が拓けたもので、まさに「ネットワークと社会とが重要な役割を果たし」ており、「個人的なケーススタディとなった」と本書中で述べている。同博士は、現在はボストンを拠点に研究を続けるとともに、ハンガリーでも教鞭をとっている。

「パフォーマンスは正規分布だが、成功はべき分布となる(少しの実力の差が、莫大な富の差を生み出しうる)」「すでに成功しているものはますます成功しやすくなる」などの、成功を「スケールする」(その規模を大きくする)ための法則についても本書の中盤から後半で言及されているので、興味がある方はぜひ本書を熟読されたい。スティーブン・キングが実験的に違う著者名で本を出版したときには元の名前の時と同じくらい売れたが、J.K.ローリングが別名で出したときにはほとんど売れなかったなどのエピソードも散りばめられており、人は何を持って「評価」を、そして「好み」を認識しているのかについて考えさせられる。

また、同博士によるテッドトークもおすすめだ。プレゼン会場を温めるコミカルな掴みから始まり、自身の主張を色濃く反映し、かつ、映画のラストシーンのようにうまく落としたシメの台詞で終わる。内容そのものもさることながら、構成のわかりやすさとうまさにも唸らされるし、博士のチャーミングな語りに気持ちが前向きになること請け合いだ。プレゼンは英語だが、日本語字幕もあり、十数分間と短めなので、ぜひご視聴を。

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ザ・フォーミュラ 科学が解き明かした「成功の普遍的法則」』(アルバート=ラズロ・バラバシ著、 光文社刊)

高以良潤子◎ライター、翻訳者、ジャーナリスト、外資系企業プログラムマネジャー。シンガポールでの通信社記者経験、世界のビジネスリーダーへの取材実績あり。2015年より米国系大手EC企業勤務。インストラクショナルデザイナーを務めたのち、現在はプログラムマネジャーとして、31カ国語で展開するウェブサイトの言語品質を統括する。

文=高以良潤子 編集=石井節子

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