「仮想通貨の持つ匿名化という働きは、犯罪者の使用を招きかねない。犯罪者は、人身売買や麻薬密売といった違法行為に伴う支払い時に、犯罪の発覚を避けたいと考える」。連邦議会の調査機関であるGAOはそう強調する。
GAOは、犯罪者による仮想通貨の悪用が急増している証拠として、米財務省の金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)に提出される、疑わしい取引に関する報告書の数が5倍に増えたと指摘している。仮想通貨と麻薬密売が絡む取引の数は、2020年に1432件に上り、2017年の252件と比べて大幅に増加した。
リポートではさらに、人身売買問題に詳しい非営利団体ポラリス・プロジェクトの2020年データが挙げられている。セックスワーカーを取引するオンラインプラットフォーム40カ所において、仮想通貨は2番目に広く受け入れられていた決済手段だったというデータだ。そうした場が、性的搾取を目的とした人身売買に拍車をかけている。
GAOのリポートはまた、ダークウェブ上のマーケットプレイスで違法薬物を売買する際と、麻薬カルテルが利益を「洗浄」する際に、仮想通貨が使われるケースが増加の一途をたどっていることを、米司法省が懸念している点を指摘している。
米国土安全保障省(DHS)移民税関捜査局によると、監視を行ったダークウェブ上の取引のうち、推定で80%から90%が違法薬物に関係しており、そのすべてが仮想通貨による取引だった。ダークウェブのマーケットプレイスでは、仮想通貨以外の決済手段は利用できないからだ。
仮想通貨はまた、フェンタニル等の合成オピオイドの売上を増加させる主因でもある。これについては、米麻薬取締政策局(ONDCP)が注意を促してきた。
リポートの作成者は、政策立案者や規制当局、警察が、仮想通貨や人身売買、麻薬密売を、優先すべき関心分野とみなしていると明言。しかし、人身売買と麻薬密売において、仮想通貨が違法に悪用されている状況を評価し報告するには、連邦機関の持つデータは不完全な可能性がある、と釘を刺している。
「米国における人身売買の被害者数や、人身売買が生む利益額について、信頼に足る推定値は存在しない」とリポートは結んでいる。
GAOによれば、犯罪者は新技術を駆使して警察の目をかいくぐっているという。その一例が、DEX(分散型取引所)だ。DEXは、ユーザーが仮想通貨を他のタイプの仮想通貨に交換したり、資金を法定通貨に交換したりする場である。
GAOは、この問題の規模をより正確に把握するために、FinCENと警察に対して、現金と仮想通貨を交換できるコンビニエンスストアをはじめとする各種の交換所について、登録要件を見直すよう求めている。その上で、必要に応じて適切な措置を講じ、登録時や登録の更新時には、個々の交換所の場所について、より詳しい情報を収集してほしいとしている。