藤田:会社として最初の接点は、ABEMAの『会社は学校じゃねぇんだよ』のドラマ制作でした。ただ、そのころは藤井監督のことをよく知りませんでした。すごいと思ったのは、やっぱり映画『新聞記者』。
藤井が監督・共同脚本を務めた映画『新聞記者』(2019年)。タブーに斬り込み、日本映画史に爪痕を残した衝撃作
みなさんご存じないかもしれませんが、僕は報知映画賞の審査員を9年務めていて、日本の映画を毎年100本以上観ています。いろんな作品を見てきたなかで、今いちばんすごいのは藤井監督だとフラットに思いました。
藤井作品だと役者も変わるし、まわりのクリエイターも集まってくる。そんな藤井監督を中心とした気鋭のクリエイターたちと、日本から世界的コンテンツを出すというテーマに一緒に取り組みたいなと。
日本の映像コンテンツが韓国に勝てない理由
──日本も優れた映像コンテンツは多い。いいものをつくるだけでは世界で通用しないのか。
藤田:今、子会社Cygamesの『ウマ娘 プリティーダービー』がヒットしてグループ業績に大きく貢献してくれていますが、Cygamesは予定していた開発期間を大幅に延期してでも、ひたすらいいものを追求し、圧倒的なクオリティーのゲームを実現させ、それが大ヒットすることで結果的に大きなリターンを得ています。
世界で勝負できる環境は整いつつあります。コロナ中にNetflixが伸びて、日本の作品が海外でも見られるようになりました。韓国では、BTSのようなアーティストがオンラインライブで世界から簡単に課金されています。すごいものをつくれば、それを世界に届けるのは難しい時代ではなくなっています。
あとはお金をかけられるかどうか。いいものをつくりたいけどお金がないとか、いいものをつくっても報われないで人が集まらないという藤井監督の話は、本当にその通りです。
藤井:僕がNetflixで『新聞記者』を撮っていたときに、アメリカのNetflixでは『クイーンズ・ギャンビット』というドラマをつくっていました。
観てみると、シナリオは負けていない。演出、役者の演技、カメラワークも負けてない自信がある。でも美術や衣裳、スケールといった点では悔しいと思うことがたくさんありました。そこはお金なんです。予算の制約があると、どうしても企画の段階からそれに縛られてしまう。勝負するには、バーンとお金をかけれる環境が必要です。
韓国ともクオリティの差はないと思っています。ただ、スタジオドラゴンの話を聞くと、お金の環境面に加えて、競争意識の差は感じますね。会社に何百人もガッと入れて、企画を一つ通すために高め合う環境は尊敬しています。それに、視線が外に向いている。日本で外にも目を向けているコンテンツスタジオは少ないように感じます。他の多くは、ドメスティックに収益をあげることに向いています。
外を向くと、映像言語も世界が基準になります。韓国の映像クリエイターたちは、世界の人にどう見てもらえるかを意識して、シナリオを単純化したり、文化的な部分をあえて深く掘らずに、どこの国の人でもわかるような味付けをして見せています。底が浅いという声があるかもしれませんが、それは妥協ではなく、明確な意思です。『イカゲーム』を見たときにも、200カ国のパイを取りにいくんだという勇猛果敢な姿勢を感じました。
BABELは、やはり外を向いて作品をつくりたい。藤田さんがおっしゃるように世界に届ける環境は整いつつあります。今、全世界に殴り込みをしないでいつやるのかというつもりでいます。