リーダーの使命は「モチベーションの提供」 ディズニー・ジャパン社長の転機

ウォルト・ディズニー・ジャパン代表取締役社長 キャロル・チョイ


「できる」を引き出すリーダーシップ


入社後、最初に与えられたポジションは、グレーター・チャイナにおけるホームエンターテインメント・ビジネスのリーダーだった。
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2006年当時のホームエンターテインメントは、自宅でのDVD鑑賞。その頃の中国には海賊版DVDが多く出回っており、正規のDVDビジネス市場は小さかった。自分たちの物語を伝える方法として、その市場をどう取り戻すのか。それが与えられた課題だった。

新しい仕事で「不安を感じながらも走り続けられた」のは、当時の上司であるボブ・チェイベック氏(現ウォルト・ディズニー・カンパニーCEO)の存在が大きかったという。

「ボブには『たとえどんなにハードルが高くても、我々は“物語”によって中国の消費者とつながらなければならない』という信念がありました。その当時は何も、決まっていたことはありませんでしたが上海ディズニーランドが完成する前に、ブランドに対する親近感をホームエンターテインメント市場で構築するという明確なビジョンがあったのです。

そうした長期的なブランド戦略があったからこそ、上海ディズニーランドは現在最も成功を収めているパークの1つになっているのだと思います」

その壮大な計画の一翼を担ったチョイは、2012年にグレーター・チャイナのマーケティング担当バイスプレジデントに就任。2018年には韓国のマネージング・ディレクターとなり、FOX業務の統合を成功に導くなど、着実に結果を残してきた。

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「大きなビジネスを成し遂げるためには、どんなときもチームワークが欠かせません」というチョイは、韓国のマネージング・ディレクターに就任した際に、自分なりのリーダーシップを掴む気づきを得た。

「初めてのチームに異動するときは、いつも転校生のような気持ちになるんです。すでにチームが確立している状況で、新しいリーダーとして引っ張っていかなければならない。どうすれば自分は新たな場所でどんな価値が提供できるのか、チームでやればもっと大きなことができるんだと、みんなに信じてもらうにはどうすればいいかを考えました」

そこでチョイは、キック・オフ・ミーティングを新しい形で行うことにした。用意した原稿を読みあげるようなビジネスライクなものではなく、トップパートナーや観客を1000人以上も招待し、大きなスクリーンをつかってメンバーに舞台の上でプレゼンテーションしてもらう形に変更したのだ。

発表が終わると、参加者が一斉に大きな拍手を送った。その瞬間、チョイはメンバーの心境が大きく変わったのを、はっきりと見てとることができたという。

「ひとりひとりの心に火がついたような、みんながワクワクし始めた様子が伝わってきました。大事なのはチームワーク。お互いを認め合ってしっかりと協業していける状態をつくるところから、全ては始まるのです。

こうしたリーダーの行動やアイデアは、感動を生み出すことを目指す我々ディズニーのような企業には特に大切だと思っています。

リーダーの役割はビジネスを成長させるだけではありません。メンバー個人に対して関心を持ち、日頃から気にかける。良いリーダーとは、メンバー個人のキャリア形成に心を砕く人だと思います。その上で、常にポジティブに振る舞い、メンバーにモチベーションを提供し、チームを率いていく。『自分には何かを達成できる能力があるんだ』とメンバー自身が信じられるようにすることがすごく重要です」
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文=一本麻衣 写真=曽川拓哉 編集=松崎美和子

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