アップル・コンピュータではマーケティング部門を率いていたのに、自ら営業を志願したり、コンパックでは日本の市場に合ったパソコンをアメリカ本社でつくってもらうべく2週間も現地で粘ったりするなど、樋口さんは自らも現場で奮闘していきました。
これが、周囲からの信頼につながります。しっかりした現場での仕事があってこその、さまざまな役職への抜擢だったのです。
「やっぱり若いうちは、現場をどっぷり経験したほうがいいと思います。販売現場でも、製造現場でも、そのほうが世界は広がります。中堅以上になったら、できないことですし。
変化の激しい時代には多面性が求められます。ひとつの会社でそれが身につけられればいいですが、なかなか難しい。ならば、ある程度、違う見方、経験を積むために会社を替えていくのもひとつの選択肢だと思います」
「ただし」と樋口さんは言っていました。「ひとつの会社でやり尽くしたという段階があって、次に進むことが大切だ」と。その期間は、だんだん短くなるそうです。
「どうしてこんなキャリアを築くことができたのかとよく聞かれるんですが、こうなろうと思ってやってきたわけではないんです。唯一言えることは、目の前の仕事からは決して逃げなかったということです。そこでいろんな偶然や人との出会いがあって、いまがあるんです」
不本意に思えたとしても、まずは前向きに捉えてみる。そこから得られるものを考えてみる。それは、意外に大きなものかもしれない。樋口さんからの大きな学びでした。
連載:上阪徹の名言百出
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