コロナ感染後の嗅覚異常の治療に期待、英大学がビタミンAを研究

Dmitry Marchenko / EyeEm / Getty Images

英イースト・アングリア大学(UEA)の研究者などのチームが先ごろ、新型コロナウイルスやその他のウイルス感染症の患者に多くみられる症状の一つ、嗅覚の喪失(または変化)の治療に効果があると期待されるビタミンAの効果について調べるための臨床試験を開始したことを明らかにした。

新型コロナウイルスに感染した人には数週間から数カ月にわたって嗅覚の異常が続く場合があることは、パンデミックが発生した当初から報告されている。UEAによると、ビタミンAはドイツで行われた研究で、嗅覚喪失の治療に「効果がある可能性」が示されているという。

UEAなどが実施する点鼻薬の臨床試験では、ボランティアで参加する患者を2つのグループに分け、それぞれに12週間にわたってビタミンAとプラセボの点鼻薬を投与。症状の変化を比較する。また、この試験ではすべての参加者にバラや腐った卵などの匂いを嗅いでもらい、その間の脳の状態も調査する。

UEA医学・健康科学部のカール・フィルポット教授(鼻科学・嗅覚学)は、脳スキャンのデータから、匂いを嗅ぐことに関係する神経が修復されているかどうかを確認できるほか、匂いを認識することに関連した脳の活動も調べることができると説明している。

教授によれば、新型コロナウイルスに感染した後、4週間がたっても嗅覚が完全に元に戻らない人は、およそ10人に1人だという。嗅覚異常は「大きな問題」だとして、教授は次のように述べている。

「うつ病や不安障害、食欲の変化、孤立などにつながるものだ。また、ガスや食品が傷んでいることなど、匂いによって把握できる危険が察知できないというリスクにさらされることになる」

教授によると、重大な問題であるこうした嗅覚異常の問題を抱える人は、パンデミックの発生前は5%程度にとどまっていたという。

生活の質に多大な影響


嗅覚と味覚の喪失は、発熱や咳などと並び、新型コロナウイルス感染症の症状として広く知られているものの一つだ。ただ、どれだけの感染者に嗅覚喪失が起きているのか、正確な数は把握されておらず、多ければ3分の2を超えるとの研究結果もある。

また、大半の患者の嗅覚は回復するが、異常が続く期間は、患者によって数週間から数カ月、場合によっては数年にわたって続く可能性もある。いい匂いだと感じるはずのものを不快に感じる「錯嗅」を訴える人もいる。

嗅覚の喪失は、新型コロナウイルス感染症の後遺症の中でも、命を脅かす危険もあるような症状と比べれば、それほど大きな問題ではないようにも思えるかもしれない。

だが、味覚をはじめ、その他の感覚とも密接に結びついており、嗅覚異常を経験している人の生活に非常に深刻な影響を及ぼすものだ。そして、嗅覚異常には限られた治療法しかない。これまでのところはステロイドが使用されているが、副作用があり、実際に効果があることを示す証拠も限られている。

各国の医師たちはこの症状がある患者に対し、匂いを嗅ぎ取るトレーニングを行うことを推奨している。コーヒーやニンニクなど、匂いの強いものを嗅いでみることで、それらを認識できるように脳を再訓練する方法だ。

編集=木内涼子

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事