CEOの南部靖之は、1976年の創業時から企業理念「社会の問題点を解決する」を掲げ、“サステナブル”という言葉が広まる前から、持続可能な社会の実現を目指してきた。ダイバーシティにおいても、年齢・性別・国籍・障害の有無にかかわらず、誰もが才能を活かせるような環境づくりにいち早く取り組んでいる。
南部の“サステナブル”な考え方はどのように形成され、いかに企業成長につながっているのだろうか。
サステナブルな発想の原点
小学生の時。夢中で絵を描いていた南部少年が夜遅くに帰宅しても、母は怒らなかった。同級生の母たちが「こんな時間まで何をしてたの。絵を描いてたの? 絵では食べれないわよ!」と怒る中、母は絵を10円で買ってくれた。
「僕はその10円で絵の具が買えることよりも、絵を認めてもらえたことの方が嬉しかった。だって、兄の絵は買ってもらえなかったんですよ。兄は数学が得意だったので、絵の替わりに数学の才能を認められていたんですね。その時母は僕に、『靖之は絵が上手いから、絵を描くことをいつまでも忘れてはいけないよ』と言ってくれました。価値観の多様性を教えてくれたのは母でした」
中学生になり、数学の試験で悪い点数を取り、「俺は馬鹿だ!」と嘆いていたときのこと。父が通りかかり、ひと言。「人に迷惑をかけた時にだけ恥じよ」と声をかけた。
この間のたった10秒ほどで、南部少年の“精神”が変わった。
「なるほど、成績が悪いのは僕が勉強していないからであって、人に迷惑をかけた覚えはないから悪いわけではないな、と。次の日の学校でも、向かうところ敵なし。おかげで、勉強ができる者・できない者両方と偏見なく仲良くできた学校生活でした」
南部の発想の原点には、こうした両親の教育があった。
「文化活動をする人、スポーツ選手、経営者など、いろんな人がバランス良く存在するのが社会。企業も社会と同じバランスを守るべきです。それが、経営者の“おごり”によって、企業利益だけに走ってしまうことがあります。頭だけで考えずに、頭と心のバランスを取ることが重要なのです」