東南アジアの経済発展は、働く人々の置かれた状況によって崩れ去る可能性がある。従業員が、豊かに安心して働けることが大事と考えた男は、日本の成長を支えた仕組みを現地で採り入れた。
東南アジアのフィリピン、インドネシアで、新しい言葉と事業モデルを創った日本人起業家がいる。 VENTENY創業者の和出潤一郎だ。同社は2015年の創業当初、フィリピンで従業員向け割引を中心とした福利厚生サービスから事業展開し、現在は福利厚生を入り口に「InsurTech」、「FinTech」、「EdTech」の4本の柱からなるプラットフォーム事業へと成長・拡大させてきた。
19年に進出したインドネシアでも同プラットフォームを展開。現在、フィリピンでは22万人以上、インドネシアでも17万人以上がユーザーとして利用している。
なぜ、「福利厚生金融」という言葉を作ったのか──。それは、11年からフィリピンで日系子会社社長を歴任してきた滞在経験からきている。
「昨今ますますの勢いで伸び続ける東南アジアでは、多くの企業がトップライン(売上高)を伸ばすことに集中するあまり、従業員の労働環境整備への着手が遅れているケースが多くみられました。また、個人を取り巻く金融環境においても先進国と比べて遅れを取っているため、お金が必要な時に適切な条件で借り入れができる場所がほとんど存在していない。だからこそ、福利厚生という概念の中に金融も入れて『福利厚生金融』として提案することにチャンスがあると起業しました」
その背景に、従業員の企業への帰属意識の低さや離職率という企業側がもつ課題がある。そして、医療費や教育費、通信費、その他の生活費といった従業員の金融ニーズが多様化・増加傾向にあるにも関わらず、例えば、インドネシアではデビットカード利用率は8%、クレジットカード利用率が1%程度という限られた金融環境の中で生活し、成人の48%がローン利用経験ありという従業員側の課題も大きい。
「まず、従業員向けの『BtoBtoE』という形で、従業員の金融ニーズに応えるプラットフォームを無料で提供し、企業環境向上、従業員満足度向上を支援している」