一方、これで北朝鮮の男性たちの間に流行する髪形も変わるかもしれない。北朝鮮の男性たちによっての髪形は、1にゴマすり、2に忠誠心、3に実生活という三つの要素で決まるからだ。
第1のゴマすり。北朝鮮では1970年代末から80年代にかけ、髪を襟足まで伸ばして軽くパーマをかける髪形が流行したことがあった。当時、権力基盤を固めつつあった金正日総書記を真似したスタイルだった。2000年代になり、日本でかつて流行った「慎太郎カット」のような角刈りが流行していたが、2011年末に正恩氏が権力を握ると、正恩氏のヘアスタイルをまねる男性が続出した。
第2の忠誠心。北朝鮮では「目立つ行為」は反革命分子だと疑われる原因になる。北朝鮮男性は基本的に短髪が基本だ。肩にかかるような髪形をしたり、茶髪にしたりしようものなから、すぐに街角に立った「糾察隊(キュチャルデ)」と呼ばれる風紀係に呼び止められ、説教される。ひどい場合はそのまま逮捕されることもある。女性も金正恩時代になり、髪形が多様になったが、やはり髪を染めたりはしない。みな、国営テレビが流す「今、街角ではこんな髪形、服装が流行っています」という文化番組をみて、「国がこういうスタイルを求めているのか」と理解し、行動する必要がある。
そして第3が実生活の問題だ。北朝鮮では水道や電気などのインフラ設備が劣悪だ。北朝鮮から逃れた平壌出身の知人は「夏は、ためておいた水を浴びればいいが、冬は大変だった。1週間に1回、風呂場にビニールを貼り、熱いお湯をまずまいて湯気が冷めないうちに、体を拭いた」と語る。地方出身の知人は「夏は川で体を洗った。冬は零下30度になることもあり、まず川や井戸から水を汲んでくること自体が大変だった」と話す。当然、短い髪形の方が生活していくには便利ということになる。
北朝鮮の当局がいくら、「わが国は地上の楽園だ」と強弁しても、髪形ひとつで、「世界で最も不自由な国」であることがわかる。
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