北朝鮮建国73周年記念軍事パレード(9月9日)=労働新聞ホームページから
2011年12月に権力を継承した当時から、「黒電話」という有り難くない名前がつくほど、極端に両サイドを刈り上げたスタイルではなくなっていた。以前のヘアスタイルは、「毎日、カミソリでそり上げているのではないか」と言われるほどだったが、軍事パレードでは、日本でもよく見られるようなおとなしいスタイルに変わった。
軍指揮官・政治活動家講習会での正恩氏。後頭部に絆創膏が貼られているのがわかる。=労働新聞ホームページから
正恩氏の極端な刈り上げ姿が最後に確認されたのは、平壌で7月24日から27日まで開かれた軍指揮官・政治活動家講習会の場だった。朝鮮中央通信などは7月30日にこの会議の写真を配信したが、そり上げた金正恩の後頭部に大きなベージュ色の絆創膏が貼られているのが確認されていた。北朝鮮では秘密警察の国家保衛省が、最高指導者が参加した映像を徹底的に検閲する。指導者の健康不安を推測させるような映像や画像は徹底的に排除する。金日成主席も後頭部に大きなコブがあったが、極力映り込まないようにしていた。絆創膏を貼った姿を流した以上、健康に大きな支障がないという意味とみられるが、この会議の後から、正恩氏は徐々に髪を伸ばし始めたようだ。その後、8月21日に配信された正恩氏の現地指導写真、9月3日に配信された党政治局拡大会議などをみると、正恩氏の髪形が徐々に変化していく様子が確認できた。
9月2日の政治局拡大会議での正恩氏=労働新聞ホームページから
おそらく、正恩氏の新しいヘアスタイルには、傷痕を隠したいという思惑と同時に、祖父の金日成主席の姿に近づけるという意図も込められているだろう。祖父の時代はソ連や東欧諸国の支援もあり、今よりも経済が好調だった。正恩氏は父、金正日総書記の複雑な女性関係を嫌っているとも言われる。ラフな服装や一般市民の輪の中に積極的に入っていく姿などを通じて祖父のアバターを演じる戦略はこれまでも、しばしば見られてきた。9日夜のパレードで着用したグレーのスーツ姿は、金日成氏が生前好んできたスーツと色合いがそっくり。正恩氏は昨年10月の党創建75周年記念パレードでも、同じ色合いのスーツを着用していた。
なお、一部には、9日のパレードに出席した金正恩氏は影武者だという指摘が出ている。だが、情報関係筋は「本人かどうかは目と目の間の距離、耳と目と鼻の位置などで精密にチェックする」と証言。9日の人物は金正恩氏本人で間違いないとの見方を示した。朝鮮中央通信によれば、金正恩氏は11日と12日の巡航ミサイルの試射には立ち会わなかった。米国に対して政治的な意味を強調しないようにする配慮なのか、北朝鮮軍の増長なのかはわからないが、少なくとも健康状態が理由ではないだろう。