だから、人と一緒にいるときもマルチタスクを続けてしまうことがある。会話中に相手がスマートフォンをいじっていて不快に思ったことはないだろうか。
おそらく誰もが一度は経験するこの行為は「ファビング」と呼ばれている。「phone(携帯電話)」と「snubbing(鼻であしらう、無視する)」を合わせた造語で、携帯電話を見るために前にいる人をないがしろにすることを言う。一緒にいる相手が自分に注意を向けていないと感じたら、互いの関係は損なわれる。その相手が知り合ったばかりであれ、身近な仲間であれ、ファビング行為は人間関係に悪影響を及ぼす。
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「人は相手が言ったことやしたことは忘れても、自分がどんな気持ちにさせられたかは決して忘れない」
──50年前のカール・W・ビューナーの格言は、今の時代にもぴったり当てはまる。仮にあなたが人との交流やビジネスの場で携帯電話を見ていたら、周囲にどんな印象を与えるか考えてみてほしい。その会話が対面でも電話でも、それこそZoomを通していても、相手は──子どもや赤ん坊でさえ──あなたの注意がよそを向いていることに気づくだろう。
相手が親しい友人や家族なら、ファビングしても大目に見てくれると思うかもしれない。しかし最近の研究では、リアルよりデジタルなコミュニケーションを優先させた結果、人間関係が悪化する例が次々と明らかになっている。
会話中に携帯電話がその場にあるだけで(たとえ誰も使っていなくても)、一緒にいる楽しさが損なわれるという研究結果もある。
他の人と過ごすときは、携帯電話を仕舞っておくこと。まずはこれを一年の目標にしてほしい。友人や家族、同僚といった周りの人々にきちんと注意を向けることで、相手は自分が尊重されていると感じるはずだ。互いによい関係を築きやすくなり、さらに絆が深まるだろう。
「他者との強いつながりは健康を向上させ、困難を乗り越える助けとなり、キャリアを大きく成長させる」と作家で講演者のスティーヴ・ハーパーも言っている。
「ドゥームスクローリング」の罠
余暇の時間にもついついマルチタスクをしてしまうことがある。くつろいでいるときやテレビを観ているときにも。一度にふたつ以上のことをするのに慣れてしまい、「シングルタスク」を退屈に感じてしまうのだ。その結果、SNSのフィードやニュースサイトの記事など、なんらかの情報をスクロールしながら余暇を過ごすことになる。
そうした情報には悪いニュースや煽り記事が多いことから、この行為は「ドゥームスクローリング」と呼ばれている。「doom(暗い運命、破滅)」と「scrolling(スクロールする)」を合わせた造語で、ネットでネガティブな情報ばかりを延々と読み漁ることを言う。