「団塊の上の世代では子どもも多く、お墓を継いでくれる人には困らない時代でした。仕事も地域密着だったので少なくとも2〜3世帯が一つの地域に住んでいて、先祖代々のお墓を護れる環境があった。でも団塊世代が社会の中心になっていった頃から、故郷を離れる人が増え、家やお墓を護ることができなくなってきた。
さらに少子化の影響も大きいと考えられます。子どもが5〜6人いる時代は子どもたちに親の墓を任せることが当たり前でしたが、自分たち夫婦のことを1人の子どもに任せるとなると、負担をかけてしまうという意識があるのでしょう。そうした背景から樹木葬など永代供養の需要が高まっているように思います」
また同様の理由から、すでにお墓をもっている人がお墓を撤去解体するケースもあるという。田中が続ける。
「永代供養にお骨を移す費用を払ってまで『墓じまい』する人がとても多く、最近では新規建墓率より墓じまいをする人のほうが多いと言われています。特に都内だと自動搬送式納骨堂を利用する人が急増していたり、供養の形はかなり変化してきています」
また、お墓を護る跡継ぎがいない、墓参の出費や身体的負担が大きいといった理由による「お墓の引越し」も、10年で1.6倍にまで増えているという。負担をより少なく、残される者のことを優先に考えたことによって起こる現象であろう。
こうした人々の葬儀や供養に対する意識の変化のなかで、田中はどのような思いをもって新しい供養の形を提案しているのだろうか。
「かつてのお寺は人が集まり、文化的なことや道徳を教える場でもあったため、供養などの考え方に小さい頃から触れる環境がありました。でも現代ではそうした環境がなくなり、葬儀や供養は故人のためにきちんとしてあげるべきだ、という意識も薄れてきていると思います。
自分のために自分に合ったものを行う時代にもなってきています。これまでは周りのみなさんに亡くなったことを告げるという、慣習やしきたりのため、周りの人々のために行うのが葬儀の目的でしたが、現代では家族がゆっくり別れを言うための葬儀にしたいという価値観の変化もあると感じています。そうした思いを汲み、葬儀や供養の選択肢を増やしていければと思っています」
人々の意識の変化に伴い、葬儀の形や供養の在り方も変化している。しかし偲び、弔うことで故人との繋がりを感じたいという人々の思いは変わらないのではないだろうか。そうした供養の本質を捉えながらも、新しい在り方を提案することが求められていくのかもしれない。