Whateverのアイデアの中で、由紀精密チームが特に関心を示したのが「精密かき氷機」だ。刃の厚みや角度、回転精度の高さなど、由紀精密の技術を総動員し、食べたことのない食感のかき氷を生み出す装置を作るというもの。プロトタイプを展示・実演するなどしてPRするという。実は数百万円台のかき氷機も存在するが、川村は「あまり多くのイノベーションが生まれていない機械なので、由紀精密の知見やクリエイティビティを発揮すれば、斬新なツールを作り出すチャンスがあります」と語った。
精密な削り方ができる「精密かき氷機」のイメージ図(c) Whatever
ここで永松は、ものづくりのスペシャリストとして「お客さまの喜ぶ背景に何があるか」を常々考えてきて、気づいたことを口にした。「製品自体がよくできていて欲しかったものが手に入ったとしても、それだけでは嬉しくないし、感動しないんですよ」
由紀精密社長 永松純
永松は、感動を生み出すための3つの条件を挙げる。
「第一に、モノのもつストーリー。どんな人がどう関わって製品が生まれたのか。第二に、追体験の価値。製品が自分に何か関わりを持ったとき、過去に受けた感動を呼び起こしてくれること。第三に、驚きです。例えば精密コマって驚きは一瞬なんですよ。おそらく1カ月後も回し続けている人はいないかな。すると驚きに継続性はありません」
その上で永松は「食べたことのないかき氷を食べる期待感は、生活に根ざした喜びなので、自分ごととして共感しやすいですね。これまで以上に話題を広げたり、新しい顧客体験を作ることでtoC向けの市場を開拓できそうな印象を受けました。そういった点を考えると、このようなアイデアの実現を目指してR&Dを進めてみるのが良いのかもしれません」と語った。
Whatever CCO 川村真司
川村は「完全に同感です。今回はみなさんといかにスモール・ジャイアンツの企業がもっと多くの人に知られ、愛されるためのアイデアを開発するプロセスを並走するのが目的だったので、普段以上に幅広いアイデアを持ってきました。そんな中、やはり由紀精密のコアにある『もの作り』を中心に据えた新しいコンセプトの商品開発を実現するというアプローチが一番正しい施策の方向性だと改めて感じました」と語った。永松の意見や、ブリーフで課題に挙がっていた「効果的なPRや事業に繋がるイメージがつく」といった観点からも精密かき氷機のR&D化を進めることに。
普段はクライアントに対して企画提案から制作、プロモーションまでを主導し、並走することが多いWhateverだが、今回はものづくり企業である由紀精密と「ワンチーム」でアイデア出しまで行ってきた。川村はこう振り返る。
「会社や役職の垣根を越えて、同じ思考法を共有しながらアイデアを出したことで、スピード感と高い精度を保ちながら、みんなが納得し情熱を持って取り組める良質な企画に辿り着くができたように感じます。ここまで、スピード感と高い精度をもってブレずに進められました。これからは、由紀精密の技術力のデモンストレーションに繋がり、長く人々に感動を与え続けられるような商品とプロモーションを実現していきたいですね」
由紀精密代表取締役 大坪正人
大坪は「頭の中は、かき氷機の妄想でいっぱいになってますよ。ナイフの種類や氷の粒の細かさ、食感をどうするか。工具を回すか、氷を回すか、それとも両方回転させるか」と言って、笑みを浮かべた。「きっと私たちは面白いかき氷機をつくることができます。でもこれまではものを作ったところで満足してその先の展開まで想像力を広げきれませんでした。そこをプロと一緒に並走して世の中に伝えていきたいです」