Ladegaillerieは、デジタルが切り拓く音楽の未来を次のように予想する。
「今後10年で、数百万人のアーティストが自分の創作活動で生計を立てることができるようになるだろう。なぜなら消費者はデジタル音楽にこれまでより多くの対価を支払っている。スポティファイ、Apple Music、Deezer(フランスの音楽配信サービス)などの加入者は、CDの時代よりも多くの金額を音楽に費やしている」
アーティストたちには別の追い風も吹いている。「楽曲の権利や利益還元率など、伝統的なレコードレーベルが提示してきた条件は、アーティストに好意的なものではなかった。一方で、デジタルの売上シェアモデルでは、アーティストにより大きな価値が還元される」とLadegaillerieは言う。
変革は始まったばかりだ。有料のサブスクを利用する消費者は欧州ではまだ10%〜12%にとどまる。まだまだ市場のパイそのものが拡大する「大きなチャンス」があるという。
その成長の鍵を握るのが、ローカル戦略だ。Believeは世界50カ国に進出しているが、ローカルにしっかりしたチームをつくることを重視している。
「グローバルスターが売り上げの多くを占めると思われているが、ほとんどの国で、消費の85%が自国で活躍するローカルアーティストだ。われわれはその国のトップアーティストをしっかり支援していく」
このような多様性を重要視する姿勢は、Believeの経営体制にも現れている。10人いる執行役員の7人が女性で、取締役会も女性の比率が男性を上回るなど、ダイバーシティはこの会社にすっかりと根付いている。Ladegaillerieは次のように力強く展望した。
「音楽業界では、いまディスラプション(破壊的変革)が起こっている。われわれは常にその推進役でありたい。これからの音楽はもっと民主的で、多様性がある、より良いシステムになる」
VCの支援で成長の痛みを乗り越えた
Believeが挑むのが音楽業界の変革なら、Klarnaが挑むのは規制で守られてきた金融業界だ。
Klarna は、2005年に創業したスウェーデン生まれのスタートアップだ。メールアドレスと住所を登録するだけでクレジットカードなしに決裁できるシステムと、商品到着後30日の後払いサービスで広く知られるようになった。
ヨーロッパはクレジットカードの普及率が低く、ECサイトでの買い物に不便を感じる人が多かった。Klarnaは後払いサービスで、その問題を解決する便利な方法を提示したのだ。
現在、米国を含む17カ国でサービスを提供しており、ユーザーは約9000万人。そのシステムが導入されているショップやブランドは、スウェーデン本拠のH&Mやドイツのアディダスなど25万ほどあり、1日の取引は200万回にも達している。
そのKlarnaがいま注力しているのは、スウェーデンやドイツなどで展開している個人向け銀行業だ。
「(手数料など)1人あたり年平均350ドルのお金を銀行に払っている。これはおかしな話だ。もっと顧客フレンドリーにして、お金を消費者に還元する。この業界をディスラプトしたい」
こう語るのは銀行業への挑戦を決断した創業者兼CEOのSebastian Siemiatkowski。消費者へ還元の強い思いを抱いて2015年に事業計画化した。
それまで後払いサービスで成長してきたものの、その勢いは鈍化していた。そこで事業を見直したことで生まれたアイデアが銀行業への挑戦、ローンチまでに3年をかけて開発したという。
Klarnaは、VivaTech 2021の開催直前には、ソフトバンクの「ソフトバンク・ビジョン・ファンド2」が主導する最新の投資ラウンドで6億3900万ドルを調達した。評価額は460億ドル。これは、3月に10億ドルを調達したときの評価額である310億ドルからは47%の増加となる。