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川村雄介の飛耳長目

美輪明宏さんと言えば、ヨイトマケの唄である。日本の高度成長時代の厳しさと哀愁が漂うが、将来への希望をもたせてくれる歌でもあった。貧しい母子家庭の子どもが懸命に努力して、日本経済の成長を担う人材に育っていく、彼を必死に支えてくれた母親への、切ないまでの愛惜に満ちた詩とメロディには心を打たれる。

当時の花形職業は技術者であった。エレクトロニクス、船舶、自動車、土木・建設などいわゆる理系のお仕事だ。1970年当時の小学生がなりたい職業は、男子のトップがエンジニアで、パイロットと電気技師も上位5位以内に入っている。これが2018年には科学者・研究者はかろうじて10位、ユーチューバーよりグンと下位である。女子では、1970年はもちろん、2018年にも技術系は顔を見せない。

日ごとに激化しているのがグローバルな科学技術競争である。米国と中国は、最先端技術の分野で猛烈なバトルを繰り広げている。CO2削減技術などでは欧州が優勢だ。残念ながらこれらの分野で日本は劣勢にあり、危機感が高まっている。大学や研究機関と企業の研究開発部門へのヒト、モノ、おカネの供給を格段に増やすべきことは言うまでもない。

足元の対応以上に大切なことは長期的な視点、とくに子どもたちに科学を身近で面白い存在にしてあげることだと思う。

ヨイトマケの唄の時代に、子どもたちは鉄人28号や鉄腕アトム、それにテレビドラマの「少年発明王」が繰り出す発明品の数々に魅了された。私と友人たちは、模型レーシングカーに搭載するマブチモーターのコイルを巻き直したり、Uコン機の小型エンジンの燃料を工夫したりと、愛車、愛機のパワーアップに夢中になっていた。理科室では、500倍の光学顕微鏡の薄暗いレンズで、プレパラート上を動き回る微生物の姿に喚声を上げたものである。

同時に、高度成長の深刻な矛盾を目の当たりにしていた時代でもあった。どす黒くよどんだ横浜港や多摩川から見るねずみ色のスモッグに覆われた東京、大腸菌だらけの湘南の海。夢の膨らみと環境破壊が同居する様が子ども心に刻まれていった。

あれから半世紀余り、現在は往年以上に厳しい時代かもしれない。SF小説顔負けの高度情報化社会が日進月歩で、人々の生活は便利で豊かになった。しかし、経済格差と価値観の分断が深刻で、「世界は一つ」の理想から遠ざかるばかり。環境問題は地球を破壊しかねないレベルに来ている。科学の発展が、人間の存在意義に難問を投げかけているかのようである。

文=川村雄介

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