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2015.05.13 14:47

「ヘッジファンド悪玉論」に反発する“モノ言う株主”

2013年スイス・ダボスで開催されたワールド・エコノミック・フォーラムでのカナダ年金制度投資委員会(CPPIB)のマーク・ワイズマンCEOCopyright by World Economic Forum/swiss-image.ch/Photo (Flickr)



「アクティビスト・ヘッジファンド(Activist Hedge Funds)」と呼ばれる“モノ言う株主”らが米大企業への圧力を強めてきたことは否定できない。ヘッジファンドは企業変革のため利益を出す時間をせっついたり、株主を役員に加えたりしてきた。そのためウォール街が短期的利益ばかり追求するようになったのはヘッジファンドのせいだと言われてきた。しかし、ヘッジファンドは問題の原因ではないようだ。

2300億ドルを超える運用額を誇るカナダの公的年金運用機関、カナダ年金制度投資委員会(CPPIB)のマーク・ワイズマンCEOがフォーブスに語ったところによれば、「アクティビスト・ヘッジファンドはアメリカ全体が近視眼になってしまった症状のひとつにすぎない」という。

彼のコメントは世間一般の常識には反するだろう。アメリカ中の株主総会で、経営陣は、長期的投資を犠牲にして短期の株式利益を捻り出そうとしているとヘッジファンドを非難している。デュポンやMGMリゾーツ、ヤフーといった企業に立ち向かうヘッジファンド側は、資産分割にせよ、株主へのリターン増額にせよ、変革は急を要するという議論を吹っかける準備を整えている。

しかしCPPIBのワイズマン氏は、機関投資家と経営陣の断絶こそが、数年先のプロジェクトや成長戦略より、四半期毎の目標達成ばかりを重視するようになった原因だと言う。

「アクティビスト・ヘッジファンドの持ち株比率はとても小さい。多くの場合、企業を実質所有しているのは機関投資家だ。率直に言って、機関投資家がオーナーとして企業といい仕事をし、企業がオーナーといい仕事をしていれば、アクティビストの出る幕はないはずだ」

ワイズマン氏はカナダ太平洋鉄道を例に挙げた。同社はやる気のない投資家の経営チームのもとで長年活気がなくなっていたが、機関投資家のパーシング・スクエアからビル・アックマンが経営陣に加わって、必要に応じて資金運用が行われ経営手段が変更され、長期的に株主の利益となった。

ワイズマン氏は実業界や金融市場に顕著な短期利益追求型思考を補正するイニシアティブ「Focusing Capital on the Long Term(FCLT,投資家は企業に長期目標を求めよ)」の共同議長を務める。FCLTにはコンサルティング会社の雄、マッキンゼー・アンド・カンパニーのドミニク・バートンCEOなど強面のビジネスリーダーたちが参加している。

FCLTは4月にマンハッタンで首脳会議を主催し、著名な財界人が集まった。つい最近は、米大企業500社の代表に短期的利益を追求しすぎているという知見を郵送した。今後数カ月間で、長期的利益を追求できるよう、インセンティブ、事業計画などをどのように創出して行くか具体的な提案を示すものと見られている。

ワイズマン氏は「ウォール街にしろ地方の実業界にしろ、ビジネスの運営にはもっと、資金の源泉である貯蓄者の利益を考える必要がある」と言う。

401k、公的基金、年金資産といった数十年の時間軸を設定された資産がウォール街を通過して企業の資金となり負債や資本となっているが、資金の出し手の利益は顧みられていない。

事業拡大または投資の10年計画を策定中の企業があったとする。その計画で利益が出るのは何年も先だろうが長期的には大きな成果を上げるかもしれない。ワイズマン氏は中国に進出したプロクター・アンド・ギャンブルを一例として挙げた。同じような例として、グーグルのスマートフォンへの投資、ゼネラル・エレクトリックのインダストリアル・インターネットへの投資、マイクロソフトによるクラウドコンピューティングプラットフォームの創設といった成長に向けた決断も思い浮かぶ。しかし、いまどきはそういう計画は取締役会にも株主にも提案されないだろうとワイズマン氏は言う。

そういった支出計画を無条件で通してくれた経営幹部や重役たちは成果が現れる前に企業を去っているだろうし、長期保有しない回転の速い株主たちについても同じだろう。ある意味、CPPIBがソフト開発のインフォマティカ株式を共同取得したときのような未公開株取引から、公開企業が長期の意思決定を制限されていることがわかるとワイズマン氏は言う。ワイズマン氏のような投資家たちはむしろ、長期的な利益が見込める未公開株式を選ぶ。

FCLTの解決策とは、長期投資を求める企業と株主との対話を増やす一方、インセンティブをひねり出すことだ。そうすれば投資家と経営者の両サイドがリターンを得る。投資に対してより明確な目標があれば、経営陣は自らの責任をより果たせるようになり、投資家から十分信頼されるだろう。

すでに多くの実例がある。

大手バイオ製薬会社のギリアド・サイエンシズがC型肝炎の新薬ソバルディを製造するファーマセットを買収するため89%のプレミアムを乗せて110億ドルを支払ったとき、同社は懐疑的な投資家たちに対して10年以内に200億ドルの価値がある特許を手にしているはずだと説明した。計画から5年足らずで、ギリアドのC型肝炎事業は予定よりかなり早く拡大し、2014年には103億ドルを売り上げ、同社の総売上高の倍増に貢献した。

ファーマセット買収以来、株価は5倍以上に上昇した。新しい事業計画や新薬が市場に次々登場するなか、ギリアドは将来の売り上げが見込める長期的でしっかりした資金投入をすることで投資家の信頼を得ている。

しかし、長期に渡る資本投下が裏目に出ることもある。たとえば、軍事用自動車も製作しているトラックメーカーのナビスターはディーゼルエンジンで業界を変えられると考えて数十億ドルを投じた。

ダニエル・ウスティアンCEOのもとで何年も支出を続けたが、同社のディーゼルエンジンは規制当局の承認を得られず、市場に出ることはなかった。有名投資家のカール・アイカーンが登場し「出血を止めるべきだ」と主張した。アイカーンは株主総会で「ウスティアンを見ると、ガレージで成功の見込みのない機械を作りながらお金と時間がないとぼやく狂人を思い出す」とさえ言った。結局、アイカーンと他の株主が取締役会のポストを獲得し、ウスティアンは解任され、同社はディーゼルから手を引いた。

ワイズマン氏は、長期的な計画と投資家との不断の対話こそが、企業に長期的に考える自由を与え、信頼も保つことができると語る。
「私たちは言い古されたことを言うためにFCLTをやってるんじゃないんです。これは社会全体に経済成長と繁栄をもたらすでしょう」

文=アントニー・ガーラ(Forbes)/ 編集=遠藤京子

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