大人にとっても必要な、本当の意味での「サードプレイス」
コロナ禍でもいつも通り施設を開き続けた川崎市子ども夢パークでは、感染対策のためにさまざまな制限をしなければならなかったが、そこでも子どもたちが楽しみながら知恵を出し合う姿が見られたという。
「大人は『中止』『禁止』とすぐに言っていましたが、子どもたちは、コロナ禍でも楽しく遊ぶにはどうすればいいかを自分たちで考え、おもしろいアイデアで新しい遊びを創り出しました。なぜダメなのか、どうすればできるのかを考え、チャレンジし続ける子どもたちから教えられたこともたくさんありました」(西野さん)
神奈川県川崎市にある「川崎市子ども夢パーク」で遊ぶ子どもたち
子どもたちは、大人に定められたルールを言われた通りにただ守るだけでなく、自分たちで問いを立て、協力し、創造し、制限されたなかで工夫してより楽しく生きていく力を確実に身につけていたという。
翻って私たち大人はどうだろうか。誰かから与えられる「ねばならない」を守る以上に大事なことを、大人も子どもから学び、捉え直す必要があるのではないだろうか。
子どもたちに必要な「サードプレイス」は、他人にあわせたり、親の目を気にしたりせずに、安心して過ごせる場所であることが重要だ。受験を勝ち抜くための塾でも、親に決められた習いごとでもなく、「安心してありのままの自分でいられる」ことが大きな意味を持つ。
評価や競争から解放され、誰とも比べられることなく、制限や時間に追い立てられることなく、試行錯誤しながら自分のなかに生まれる思いを形にできる本当の意味での「サードプレイス」。それをこれからどのように増やしていくか。これは、子どもたちだけでなく、すべての世代にとっての大きな課題かもしれない。
【連載】人はなぜ「学ぶ」のか?【全5回】
1.災害や不登校 日常が壊れたとき、「学び」とどう向き合うか
2.子どもたちにとってのサードプレイス。自宅と学校以外の「居場所」が果たす役割
3.遅れをとる日本の「インクルーシブ教育」。その本質を見つめ直す
4.子どもたちは何のために「学校」で学ぶのか? 学びの本質を問う
5.子どものいのちは輝いているか? 教育の変わり目に感じたこと
連載:ドキュメント 教育革命の最前線から
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汐見稔幸(しおみ・としゆき)◎東京大学名誉教授、日本保育学会会長、全国保育士養成協議会会長、白梅学園大学名誉学長、一般社団法人家族・保育デザイン研究所代表理事。1947年大阪府生まれ。専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。21世紀型の教育・保育を構想中。NHK Eテレの番組などにも出演。保育、子育て、教育などについてのわかりやすい解説には定評がある。
(c)Makoto Ozaki
西野博之(にしの・ひろゆき)◎認定NPO法人フリースペースたまりば理事長、川崎市子ども夢パーク・フリースペースえん総合アドバイザー。精神保健福祉士。1960年生まれ。1986年より不登校児童・生徒や若者の居場所づくりにかかわる。91年にフリースペースたまりばを、03年川崎市子ども夢パーク内に、公設民営の不登校児童・生徒の居場所「フリースペースえん」を開設。文部科学省「フリースクール等に関する検討会議」委員などを歴任。神奈川大学非常勤講師。
(c)Koji Fujita
森田眞希(もりた・まき)◎保育士。NPO法人「地域の寄り合い所 また明日」代表理事。1969年、東京都生まれ。88年上智社会福祉専門学校卒業後、総合病院の院内保育士として勤務。01年、同病院の高齢者施設で働いていた夫の和道氏や仲間とともに「子どもとお年寄りの家 鳩の翼」を設立し、06年にNPO法人「地域の寄り合い所 また明日」を開所。2020年、第17回日本福祉学会地域福祉優秀実践賞受賞。