ふたつ目がワアクというスタートアップを福岡市に立ち上げた酒見史裕氏だ。酒見氏の家業である丸惣が福岡県大川市で家具メーカーをしていたこともあり、ワアクでは、家業や地域の強みを生かしたオーダーメイドのデザインオフィス家具をD2Cで展開している。
酒見氏の場合は、上述のKOTOBUKI Medicalと異なり、家業からの出資はない。個人出資でワアクを設立し、資本関係をフリーにしてエンジェル投資やVC投資を受けるかたちを取りつつも、家業や大川地域の強みを生かすハイブリッドなスタートアップとなった。
独立した“出島”をつくることで、老舗企業がもつ技術や経験・ノウハウ、地域でのネットワーク、スタートアップがもつ機動力や柔軟性など、それぞれの強みを融合することができる。この手法は、日本経済の新たなスタンダードの一つになりうるだろう。
酒見氏の言葉は私にとって興味深かった。
「東京に一極集中している資本を地方の挑戦者にも流したいと思った」。
地方には数十年、なかには数百年かけて培ってきた強みや独自のよいカルチャーをもつ企業が山ほどあり、その後継者たちが時代を紡いできた。後継ぎがスタートアップ的な資本政策を取り入れるやり方は、国内の企業数のうち中小企業が99%を占める日本において、より深く掘るに値するテーマではないだろうか。
なかやま・りょうたろう◎マクアケ代表取締役社長。サイバーエージェントを経て2013年にマクアケを創業し、アタラシイものや体験の応援購入サービス「Makuake」をリリース。19年12月東証マザーズに上場した。