そのアマゾンが、アメリカのバージニア州アーリントンに建設を予定している、第2本社ビルのコンセプトを2月初めに発表した。2025年完成予定というメインビルディングは22階建て、敷地面積約26万平方メートル(東京ドームの約5倍)、デザインは光り輝く「二重螺旋(らせん)」だ。このメインビルディングを中心に展開される第2本社キャンパスは「Pen Place」と命名される予定だ。
建造物のデザインは、「米国グリーンビルディング協議会」によってサステナブルな開発の最高レベル「LEED Platinum」に認定された。その空調システムには、南バージニア州ピットシルベニアにある太陽光発電所がアーリントンと協力して供給する、「100%再生可能エネルギー」が使われる。
NBBJ/Amazon
アマゾンは2019年、「Global Optimism」との間で、「気候変動対策に関する誓約」に調印している。日本をはじめとする各国は、「CO2排出実質ゼロ」を2050年までに達成することを目標にしているが、同誓約が掲げるのは10年早い「2040年まで」。そんな意気込みのもとに始められるこの第2本社ビルキャンパス建築も、徹底した脱炭素社会を目指すサステナブルなプロジェクトになることに間違いはなさそうだ。
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「アーリントン」に決まるまでの誘致合戦
アマゾン第2本社ビルの候補地をめぐっては、2017年から北米各都市が候補地に名乗りを上げ、文字通り熾烈な誘致合戦が繰り広げられた。
たとえばカナダ、トロントのジョン・トーリー市長は以下のようにツイッターで、「同市は最高の候補」とアピールした。
I firmly believe that Toronto is a prime candidate to host @amazon’s second headquarters in North America. pic.twitter.com/20ThUwwIFH
— John Tory (@JohnTory) September 7, 2017
また、アリゾナ州ツーソンの経済団体「サン・コリダー」は、なんと6メートル以上の巨大サボテン「ベンケイチュウ」を寄贈してアピール。ちなみにアマゾンはこのサボテンを受け取らず、アリゾナのソノラ砂漠博物館に寄付したという。
アラバマ州バーミンガムでは、巨大な3個の「配送用ボックス」のインスタレーションを市内に設置。ジョージア州ストーンクレストは誘致に成功した場合、約1.4平方キロメートルの土地を第2本社キャンパス用に確保し、この区画を「アマゾン町」と命名することを市議会で決定している。
他にも誘致をめぐる都市伝説まがいの逸話まで囁かれ、候補地選びがヒートアップの頂点を迎えた頃、いったんはニューヨーク市、クイーンズ区に決定したかに見えた。しかし、30億ドルの税控除をはじめとする市当局の優遇措置が地元住民の不利益になるとの反対派の主張に抗えず、アマゾン側が2019年にこのプランを撤回。まさかの事態となったことは記憶にも新しい。
そんな劇的展開も経て、ついにアマゾンの「第二の故郷」に決まったのが前述のバージニア州アーリントンだ。ポトマック川を挟んでワシントン D.C. の向かい側にあり、ジョン・F・ケネディ元大統領などが眠るアーリントン国立墓地と、そこで燃え続ける「永遠の炎」でも知られ、アメリカ空軍記念碑もそのモニュメントの1つである。
そんな歴史的エリア、アーリントンのカウンティ理事会メンバー、クリスチャン・ドーシーは、アマゾン第2本社建設について次のように話す。
「わがアーリントン地域の伝統的な裁量プロセスは、多くの討議を含む堅牢なものとして知られている。アマゾン第2本社キャンパス開発についても例外ではない。地域にとって最良の結果になることを見極めつつ、プロセスを進めている」
なお、アマゾンはここ2年間でアーリントン地域のNPOに総額1900万ドルを寄付したほか、この先10年間で2万5000人を採用、25億ドルの住宅株式ファンドにより、低価格住宅2万戸の建設を予定している。
「変わらないためにこそ変わる」
先ごろ、アマゾンのCEOを2021年7~9月期で退任すると発表したジェフ・ベゾスが毎年決算期、株主宛てに手紙を送っていたのはよく知られていることだ。初めての手紙は1997年に書かれたが、翌98年の手紙にはその前年97年の手紙が添付されていた。そして99年の手紙にも97年の手紙が添付され、以後ベゾスはこの97年の株主への手紙を、毎年の手紙の末尾に添付し続けてきた。
1997年の「ベゾスから株主への手紙」末尾
ベゾスが実に22回にわたって「97年の手紙」を添付し続けたのは、株主宛て、ひいては世界に向けて「ほうら、僕が言っていることは毎年、同じだろう? われわれには不変の理念があるんだ」を伝えるためにほかならない。その「変わらないもの」が、「世界一の顧客中心企業」をはじめとする創業理念であることもいうまでもない。
まさにアマゾンは、「理念を変えない」ために「変わり続けること」を徹底してきた企業だ。そして、そんなアマゾンが第二のホームベースのメインビルディングとして選んだのが、不変の理念を軸に「回転しながら上昇する形」である二重らせんだったことは実に意義深い。
そして二重らせんは、DNAが細胞の中でとっている形でもある。ベゾスが若き日に、前夫人マッケンジーとともにアメリカ大陸を自家用車で横断、シアトルの地で起業したリテール・ジャイアントは、新CEOのもと、アーリントンの地で「らせん状に回転」しながら、不変のDNA継承のために変わり続けるに違いない。