14年連続で三つ星を、さらにこの度グリーンスターも受賞した「カンテサンス」のオーナーシェフ、岸田周三氏は、水産資源のサステイナブルな利用を訴える料理人団体「シェフス フォー ザ ブルー」の理事も務める。農業・畜産業を取り巻く環境の変化も予断を許さないが、天然資源である、水産資源の枯渇は特に恐ろしいスピードで進んでいると指摘する。
「自分の店では、国産の天然魚のみを提供しているが、シェフになった15年前と比べても、魚種を問わず、当時は当たり前にあった質の高い魚がいなくなり、価格も倍近くに上昇し、レストラン経営の圧迫要因にもなっている」という。確かに、筆者の行くスーパーマーケットなどでも、近年海外産の魚が格段に増えた。
「世界で6番目に海洋面積の大きい日本では『魚は当たり前にいるもの』と思われてきたが、これからはその考えは通用しない。このままでは日本の食文化は廃れてしまう。欧米で行われているような、科学的な調査と評価に基づく1隻あたりの漁獲量制限などの対策を、一刻も早く導入すべき」と訴える。自身も「幼魚などは使わず、産卵期を終えた、大きく成長した魚のみを、トレーサビリティのはっきりした、信頼できる業者から買う」と決めている。
今年12月1日には、70年ぶりに改正された漁業法が施行された。「水産庁発表のロードマップには、より積極的に水産資源の保護を行う指針と具体的な工程が示されている。ぜひ、注目して欲しい」という。
15年前に始めた「カルト・ブランシュ」お任せメニュー1本のスタイルも、フードロスが出ない究極の方法だ。「あらかじめどれだけ使うか分かっているから、営業が終われば、冷蔵庫が空っぽになる。常に新鮮な食材だけを提供でき、フードロスが出ずに環境にも良いし、経営的にも安定する」と語る。
スペシャリテ「山羊乳のババロア」
今からこそできる挑戦を
また、寒さと共に訪れた新型コロナ第3波は、多くの飲食店にとって懸念材料だ。岸田氏は「国の支援を待つだけではなく、感染対策をしっかりと行なった上で、挑戦をしていくべき」と語る。
15年間、一切インターネットサイトでの販売をしてこなかったが、初めてサイト上でのオリジナルケーキの販売を始めた。それは、オーナーシェフとして万が一、再度緊急事態宣言が出て営業できなくなっても、きちんと従業員を守るための方法でもある。
6月に2人のパティシエを新しく雇い、自らが作成したレシピで試行錯誤を共に繰り返した。同じ厨房でケーキ作りを行うことで、既存のスタッフにも、新しい視点を提示できるなどのメリットも感じているという。「今回作成したケーキは、コロナ禍で時間ができた緊急事態宣言時にレシピ開発を行なった。料理人ならではの工夫を凝らした新しいものになったと思う。業界全体に一石を投じるものになれば」と考えている。
コロナ禍をチャンスに、今だからこそ、の挑戦が求められている。