キャリア・教育

2020.12.05 17:00

伊藤詩織、映像ジャーナリストとして生きる。現実から見出す、小さなともし火

映像ジャーナリスト 伊藤詩織さん


アルバイトで貯めた資金も底をつき、一時帰国後、ロイター通信の日本支社でインターン契約を得る。ニューヨークの留学生活で知り合ったTBSの元記者から、性暴力被害を受けたのは、その日本にいた2015年4月だった。
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性暴力被害は「魂の殺人」とも呼ばれ、その後の詩織さんはPTSDを発症するなど、多大な心痛を受け、民事裁判では勝訴したのはご存知の通り。彼女も「あの日、私は一度殺された」と自著の『Black Box』に記すように、それは消えない傷となった。

一方で、苦しさを抱えながら、ジャーナリストとしてのともし火は消してはいなかった。イギリスの支援団体から声がかかり、コロナ禍前の5年弱は、イギリスを拠点としてきた。

支援団体を通じて、スウェーデン出身のジャーナリスト、ハンナ・アクヴィリンとの出会いもあり、2018年に彼女と共にドキュメンタリー制作チーム「Hanashi Films」を設立。BBCやアルジャジーラなどで作品を発表してきた。
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孤独死の現場を追って、感じた「愛おしさ」


最初に、詩織さんが手がけたドキュメンタリーは『Lonely Death』という作品だ。日本の孤独死をテーマに、死後の現場の清掃人たちを追った、45分17秒の作品は、シンガポールを拠点にするCNA(Channel NewsAsia)で、2017年に放送された。そして、この作品は、国際的なメディアコンクール「ニューヨークフェスティバル2018」で銀賞を受賞する。

当初は、ロイターのインターンとして、3分間の短いニュース映像に仕立てたのだが、そこでは収まりきらないストーリーがあり、それを伝えたかったために長いドキュメンタリー作品にしたという。

「まず、孤独死=高齢化社会という図式は自分の思い込みだと気づいた。どれだけ人との繋がりがなくなっているか、コミュニケーションに課題がある。そしてそれは、東京で1人暮らしをしていた自分にも、あり得る話だと思った」

こう考えた詩織さんは、最初にBBCへ企画書を持ち込んだ際に「時間的に制約があるので放送はできないが、企画としては面白い」と言われたことが後押しになったという。

孤独死の場合、死後から発見まで時間がかかることも多く、遺体がすでに搬出された後であっても、体液が残っていたり、うじ虫が大量発生していたり、凄惨きわめる現場である。

ドキュメンタリーでは、若き20代の女性の清掃人に焦点を当てた。彼女は現場に入ると、合掌をした後、先輩の清掃人の指示のもと、手際よく部屋の片付けをしていく。そんななか、故人のものと見られる家族写真なども発見されていく。

伊藤詩織さん
取材現場では、深い悲しみを抱えた人と接することもある。その時、心がけていることがある。

詩織さんは、孤独死の現場でどんなことを感じていたのだろうか。

「正直言うと、最初は、私もすごく悲惨な状況、嗅いだことのない臭いに慣れませんでした。でも、当たり前だけど、故人の方も私たちと同じ『人』だった。女性の清掃人からは、故人の方への敬意や愛も感じられ、だんだん私も故人に対して愛おしさを感じてきました」

人の死や命と向き合うとき、詩織さんはあることを心がけているという。

「(性暴力被害の件で)自分が取材される側になって感じたのは、すごくエネルギーを使うということ。取材という行為は、相手に対して暴力的になりかねない。深い悲しみを抱えている人に、またその話をしてもらうのはすごく酷なこと」と前置きしたうえで、それは「取材相手とできるだけ近いゴールを持っている」ということだという。

例えば「2度とこんなことが起きないようにする」という目的を持ち、見えづらかった課題を可視化することこそ、ジャーナリストの仕事であるともいう。


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文=督あかり 写真=Christian Tartarello

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