キャリア・教育

2020.12.05 17:00

伊藤詩織、映像ジャーナリストとして生きる。現実から見出す、小さなともし火


日本で、詩織さんは、厳選されたクリエイターたちが自由に作品を投稿できるプラットフォーム「Yahoo! JAPAN クリエイターズプログラム」に参画し、ショートフィルム作品を発表している。

アフリカのシエラレオネの少女の女性器切除の実情を追った『Complete Woman Episode』など話題作を発表し、2019年にはプログラム内の「ドキュメンタリー年間最優秀賞」を受賞した。

現在は、初となる長編のドキュメンタリー映画の制作も行なっている。財政破綻した夕張市の姿を5年前から追った『ユーパロのミチ』だ。

題名はアイヌ語で、ユーパロは夕張という地名の由来ともなっている「鉱泉の湧き出るところ」、ミチは「父親」という意味だ。映画では、炭鉱夫を力強く支えた、たくましい母の姿にもスポットを当てている。この地には、開拓以前は、アイヌの人たちの暮らしがあった。



実は、2020年中に完成させたかったのだが、新型コロナウイルスの感染拡大によって、追加取材が行えない状況になってしまった。「共につくってくれた、撮影に応じてくれた人たちにも早く見せたい」と、自身も完成を心待ちにしている。

「ドキュメンタリーってあまり身近じゃないかもしれないけれど。最近、ネットフリックスとかで、若い人もよく観ていますよね。映画として、身近に多面的に伝えられることをとても楽しみにしています」

コロナ禍の収束が見えないなか、映画は完成の見通しがつきにくい状況だが、当面は、日本を拠点にドキュメンタリーの制作もするつもりだという。

ジャーナリストとアクティビストの関係性


映像ジャーナリストであり、アクティビスト。その両面を併せ持つことで見えてきたことはあるのだろうか。そんな疑問に、詩織さんは「自分で言える肩書きは、ジャーナリストだけ」ときっぱりと答える。

「自らアクティビストを名乗ったことは一度もありません。性暴力被害がなければこのような活動をしていません。自分ではコントロールできないところですよね。だからアクティビストとして賞をいただいた時は、本当にびっくりしました。アクティビストっていろんな解釈があると思いますが、選んだ人たちにとってのロールモデルになっているのではないでしょうか」

伊藤詩織さん
記者に対して「なぜジャーナリストになろうと思ったんですか」と逆質問をする詩織さん。自らのこれからの夢も語ってくれた

映像ジャーナリストとして、着々と作品づくりをしている詩織さん。今後の目標を尋ねると、彼女はこう笑った。

「ゴールはありません。だけど、ちっちゃい夢、バケットリストはいっぱいありますよ」

そのリストにはこんな夢が載っている。

・エベレストかキリマンジャロに登る
・海の目の前に住んで釣りをしながら暮らす
・スペイン・バルセロナで暮らす
・シベリアを横断する

聞くと、彼女とってのちっちゃい夢は、大きな夢ばかりのようにも思える。だが、ここで冒頭の幼い頃の詩織さんのサバンナへの夢を思い出す。彼女の人生は、酷な運命に晒されても、小さなともし火で自らの心を照らし続けているのだ。その灯りは、誰かの人生をも明るく照らしているのだろう。

文=督あかり 写真=Christian Tartarello

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