経済・社会

2020.12.03 07:00

パンドラの箱を開けたトランプ氏。米大統領選という「熱狂」の爪痕

Mikael Törnwall/Getty Images


一方的な情報が「真実」に


品位や良識に欠けた強く攻撃的な言動を繰り返し、選挙結果が明らかになった今でも自らの敗北を認めない。トランプ氏の態度はどこか子どもじみているようにも思えるだろう。それでも彼を支持する人々が後を絶たないのはなぜなのか。
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それは、一度好意を持った存在の発言は、それが嘘か本当かを考える前に正しいと信じ、受け入れてしまう傾向が人々の中で強くなっているからではないか。その要因として、私はインターネットの存在が大きいと思う。

ネット社会になり、自分が触れる情報を自ら選択できる時代になった。新聞などのオールドメディアは、必ずある事柄に対し反対するコメントなども掲載し、真実を検証していくコンテンツだった。しかし、ネットに溢れる情報はそうではない。自分の考えに合う情報や意見に積極的にアクセスできる反面、ネガティブな情報や反対意見はとことん無視できる状態ができあがってしまった。そうしたメディアに日々接することで、人々は一方的な意見や情報を“真実”であると信じ、熱狂するようになってしまったのではないか。

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Getty Images 
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しかし、そのような熱狂には公正公平など存在しない。むしろ、反対意見をすべて退ける態度そのものだ。恐ろしいことに、これは熱狂の渦中にある人々だけでなく、それに反対する相手側も思考停止に陥らせてしまう。何を言っても議論にならず無駄だ、という空気感は、民主主義を損ね、国の分断を煽っていく。

今回は、ギリギリでバイデン候補が勝利したが、就任後が本当の勝負所だ。トランプ政権の時よりも生活が良くなったと中間層を満足させられなければ、国の分断は簡単には修復できないだろう。しかし、バイデン政権がそこまでの経済発展を実現することは、ファンドマネージャー的見地から見ても相当厳しい。

トランプ氏は1月の政権交代後も自分こそが本当の勝者だと主張し続けるかもしれない。共和党からしたら、7380万人の支持者を集める彼は、政権奪還のための「美味しい人気者」。4年後の大統領選挙に再び立候補する可能性も大いにあるだろう。

二分した国民が互いの意見に耳を傾けない。そんな思考停止の状態から抜け出せないまま4年後を迎えるというシナリオも想定できる。あらゆるパンドラの箱は開かれてしまったのだ。


はたの・しょう◎作家。1959年、大阪府生まれ。一橋大学法学部卒業後、農林中央金庫、野村投資顧問、クレディ・スイス投資顧問、日興アセットマネジメントなど国内外の金融機関でファンドマネージャーとして活躍する。著書に「銭の戦争」シリーズ、『メガバンク最終決戦』など。本誌巻末にて、『バタフライ・ドクトリン』を連載中。『ダブルエージェント 明智光秀』『メガバンク 宣戦布告』『メガバンク 絶体絶命』『メガバンク 最後通牒』(すべて幻冬舎文庫)も発売中。

構成=大竹初奈、編集=松崎美和子

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