知っておきたいアメリカンポップカルチャー

キリスト教の祭典クリスマスと同時期には、ユダヤ教の祭典ハヌカも祝われる。(Photo by Unsplash)

いろいろあった2020年だけど、それでもクリスマス・シーズンがやってきた。でも最近のアメリカでは12月のこの時期を、クリスマス・シーズンとはいわずにホリデー・シーズンと呼ぶ。クリスマスはあくまでキリスト教徒の祭りであって、同時期にはユダヤ教徒による「ハヌカ」(とアフリカ系アメリカ人による「クワンザ」)も行われることに配慮しているからだ。

コメディアンのアダム・サンドラーの有名な持ちネタに『ハヌカソング』というコミックソングがある。

「クリスマスソングはこの世にたくさんあるけど、ハヌカの歌はあまりないからユダヤ教徒の子どもたちのために作ってみた」という前口上から歌われるのは「ハヌカは灯火のお祭り/プレゼントがもらえるのは1日だけじゃない/ぼくらには8日間のクレイジーな夜が待っている!」というフレーズ。


Saturday Night Liveで『ハヌカソング』を歌うアダム・サンドラー

紀元前2世紀、ユダヤ人がいまのイスラエルにあたる土地を支配していたセレコウス朝シリアから、エルサレム神殿の奪回に成功したとき、記念に灯した蝋燭が8晩経っても消えなかったという伝説に基づくこの祭り。当然のことながら紀元1世紀に生まれた男が創始したキリスト教よりも古い。でもいかんせんユダヤ系アメリカ人の数が少なく、表立って語られることがないため、ユダヤ系であるサンドラーはハヌカを自虐的に歌っているのだ。

米エンタメ界にユダヤ教セレブが多い理由


だがその一方で、サンドラーはハヌカを祝っているハリウッド・セレブが意外なほど多いことを名を連ねてみせる。これまでパート4まで作られたこの曲からざっと名前を書き出してみよう。

カーク・ダグラスをはじめ、ダスティン・ホフマン、ベン・ステイラー、ジャック・ブラック、ナタリー・ポートマン、そして『スタートレック』のカーク艦長とミスター・スポック(を演じたウィリアム・シャトナーとレナード・ニモイ)。ユダヤ系アメリカ人が約500万人しかいないにしては大した健闘ぶりではないか。

ハヌカ
ハヌカは光のお祭り。「ハヌキア」と呼ばれる燭台に立てたろうそくに、日ごとに1本火を灯す。また、子どもには「ドレイドル」という四角錐の独楽(こま)がプレゼントされる。(Photo by GettyImages)

陰謀論者はこうした状況を「ユダヤ人は結託して世界征服を企んでいる」という主張の根拠にしがちだけど、事実は全く異なる。

中世ヨーロッパの多くの国ではキリスト教が国教だったため、ユダヤ教徒は「ゲットー」と呼ばれる区域に隔離されて住まわされ、農業や工業といった通常の仕事に就くことを禁じられた。

そのため彼らは金融業(キリスト教徒間では利子のつく借金が禁じられていた)、医学、出版、芸能といったニッチな仕事に手を染めざるを得なかったのだ。しかし18世紀に産業革命が起きると状況が一変する。金融業は世界を支配し、都市で働くようになった人々にとって芸能が気晴らしの手段になった。

結果、こうした分野で人脈とノウハウを持っていたユダヤ人が活躍するようになったのである。これを面白く思わないキリスト教徒も多く、19世紀にはドイツや東欧、ロシアでユダヤ人排斥運動が活発化する。

これに対してユダヤ人は米国への移住を本格化。急速に発展する米エンターテイメント界の担い手となっていく。サンドラーが『ハヌカソング』で俳優たちの名を挙げるまでもなく、ハリウッド映画の創始者たちの多くは、ユダヤ系だった。

文=長谷川町蔵

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