(前回の記事:豊田章男、ついに「ウーブン・シティ」に私財を投じる。その腹の内は )
EV(電気自動車)やICT機能を搭載したコネクティッドカー、自動運転技術の開発競争が起き、「100年に1度」の大変革期と言われるモビリティ業界。テスラを中心に新興の自動車会社が急伸しており、コロナ禍には衝撃的なニュースが駆け巡った。トヨタを率いる章男は、この危機にどのように対応しようとしているのだろうか。
コロナ禍に奪われた「世界一」の座
コロナ禍の真っただ中の7月1日、自動車業界、いや世界中に衝撃が走った。EVメーカーの米テスラの時価総額が、トヨタ自動車を抜いて世界一になったというニュースである。テスラのそれは2077億ドル(約22兆2740億円)、対してトヨタは2021億ドル(約21兆185億円)だ。
テスラの時価総額は11月24日、5000億ドル(約52兆円)の大台を突破した。いまやトヨタ、フォルクスワーゲン、GMの時価総額を足しても追いつかない。
テスラはEV専門メーカーで、2019年の販売台数は36万台だ。トヨタなどトップメーカーの1000万台規模にくらべると、吹けば飛ぶような存在である。なぜ、そのような“レア現象”が生じたのか。
テスラがなぜ時価総額トップ、すなわち世界一の自動車メーカーに躍り出たかといえば、ズバリ、ソフトウェア開発力に対する期待値だ。
自動車産業はこれまで、人、モノ、カネの経営3要素のもとに国内外の工場建設などの設備投資をし、「有形資産」を軸に成長を遂げてきた。いってみれば、装置産業だ。ところが、今日、成長の原動力になっているのは、研究開発やブランド、知的財産などの「無形資産」だ。
「無形資産」が富を生む構図は、好業績のソニーを見ると、よくわかる。ソニーは、“第2の創業”と称して、家電産業から脱却し、ゲーム、音楽の著作権、ネットワークの使用料などの「無形資産」を主力とするビジネスモデルへの転換に成功した。テクノロジーに裏打ちされたクリエイティブ・エンターテインメント・カンパニーとして、いまや営業利益の7割をソフトが稼ぎだしている。
「100年に一度」の大変革期を迎える中で、自動車産業もまた、稼ぐ力の源泉を見直す必要がある。
現に、自動車メーカーは巨額の開発費を投じて、次世代自動車の開発競争を繰り広げている。とりわけ、クルマの電動化における肝は、ソフトウェアだ。テスラは、2019年、自動運転用の半導体を自社開発し、ソフトウェア開発で優位にあるといわれている。