もっとも官僚的な私企業とも言われる元電電公社、そのトップである。「GAFAへの対抗」という質問が飛び出した瞬間、私は「そうではない」という言葉に続く玉虫色の回答が戻って来るものと予想していた。しかし澤田社長は「対抗の意思はある」と明言した。
トヨタ豊田章男社長とNTT澤田社長は24日、両社互いに2000億円規模の出資を行い、株式を持ち合う資本提携について、東京都内で記者会見に登壇。NTTがトヨタ株の0.90%を、トヨタがNTT株の2.07%を取得。もともと両社はすでに情報通信技術開発での連携を発表済みながら、この資本提携により体制をさらに強化する。
「スマートシティ構想」でタッグ。資本提携はビッグニュースだが...
両社にとって共通のテーマは「最先端の街づくり」=「スマートシティ構想」。トヨタは1月にラスベガスで行われた世界最大の見本市、コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)にて、静岡県裾野市の東富士工場跡地に東京ドーム約15個分に値する範囲で街づくりを進める開発プロジェクト「コネクティッド・シティ」を発表した。
この実験においても、トヨタとNTTはタッグを組んでおり、最近技術を駆使した通信インフラによる実験都市の具現化を目指す。NTTもまた5Gなどの高速大容量通信による「スマートワールド」構想をあらかじめ発表していた。子会社であるドコモにおいて私が昨年まで所属していた部署もずばり「スマートライフ推進部」であり、スマートシティはこれまでの事業推進の延長線上にあくまである。
こうした点を踏まえると、業界に馴染みのある者にとって今回の発表は、日本経済産業界における自動車の巨人と通信事業の巨人がお互いに資本提携という非常に大きな枠組みを示したものの、それ以上の具体的な目玉はなかった…と見たはずだ。資本提携そのものは、のけぞるほどのビッグニュースであるものの、具体的施策については「今後」と含みをもたせたに過ぎない。そう考えただろう。
正直なところ、発注を受け見積もりを提出し、業務完了後に請求書を作成してから、毎回値引き交渉を入れて来るトヨタという企業と、何を企画しても業務遂行までスピード感の欠片もない官僚気質の抜けないNTT……と、通信業界とのつながりが深い私自身も高を括って眺めていただけに、GAFAへの「対抗の意思はある」と明言した点には、少しばかりたまげた。
記者会見での豊田社長と澤田社長(NHKライブ映像より)
会見を見た方や記者たちも、発表後の質疑応答の両社長の熱量には、ちょっと面食らったのではないだろうか。
豊田社長は、「オープンにいろんな方を入れる。それぞれ未来の価値を作る時、『ここは協調、ここは競争』という、無色透明な企業連合ができる(中略)みんなが幸せになる未来ができる」とビジョナリーらしくコメント。「日本もなかなかやるな、と言われたい」と締めくくった。
一方の澤田社長は、「NTTのスタンスは(中略)いろんな方々と協業を行っている。トヨタとNTTの業務提携はコアですが、あくまでオープンマインド」と全方位外交である点に言及しつつも、記者から「GAFAの開発予算は3兆円あるが……」と向けられると「(予算の)数え方は国によって違う。(我々は)試験研究費だけで2000億円、サービス開発費入れたら6000億円」と対抗心を覗かせた。