テクノロジー

2020.11.22 20:00

人型ロボットの「不気味の谷」 実験でメカニズム解明

Plume Creative / by Getty Images

人間が職場でかつて行っていた業務にロボットやアンドロイド、人工知能(AI)が導入される場面は増えている。人はこうしたロボットをただの認知力のある機械として捉える限り問題はないが、見た目が人間に似るようになると、気持ち悪いと感じるようになる。その原因を解明したとする研究結果が最近、科学誌パーセプション(Perception)に発表された。

「不気味の谷」


人を精巧にまねたレプリカを気味が悪いと思う現象は「不気味の谷」と呼ばれている。人間の特徴を持つアンドロイドやロボットは通常、機械のような見た目のものよりも好まれるが、それが一定の水準を超えると話は別だ。多くの人は、人間そっくりだがどこかがおかしいロボットに対し、居心地の悪さを感じる。

人は、コーヒーに浮かぶ泡に顔のような模様を見たり、空の雲が何かの形になっているのを見たり、あるいは車などの物体に名前をつけたりしても、不気味だとは思わない。今回の研究を行った米エモリー大学の心理学者、王申生らのチームはこのことから、人がアンドロイドを見るときには擬人化以上の何かが起きているのではないかという仮説を立てた。

「不気味の谷」の原因としては、人は人間のようなロボットを見るとそれに自動的に精神性を与え、機械に心があるという感覚が増すことで気持ち悪いという感覚が生まれるという説が一般的だった。しかし王は、実はその逆だということを発見した。

「不気味の谷を引き起こすのは、アンドロイドに心があると考える最初のステップではなく、アンドロイドに心があるという考えを打ち消す次のステップ、『非人間化』だ。これは1回限りのプロセスではなく、動的なプロセスだ」(王)

実験の詳細


研究チームは、ロボットに心があると認識することと非人間化が不気味の谷現象でどのような役割を果たすのかを明らかにするための実験を実施。参加者に対し、人間の顔、機械的な見た目のロボットの顔、人間に非常に近い見た目のアンドロイドの顔の3つの画像を見せた。画像を見る時間はミリ秒単位で操作され、参加者は画像の有生性(生きているように見えるかどうか)を評価した。

その結果、アンドロイドの顔の有生性は、画像を見る時間が増えるにつれ大幅に減少したが、機械的な見た目のロボットや人間の顔では有生性は下がらなかった。アンドロイドの顔では、画像を目にする時間が100〜500ミリ秒になると認識された有生性が減少した。先行研究では、私たちは刺激が開始されてから400ミリ秒前後で人間の顔を人工的な顔から区別し始めるとされており、このタイミングはそれと一致する。

2つ目の実験では、時間とともに画像の詳細さを、最小限の特徴をとどめたものから、完全にぼやけさせた画像まで変化させた。結果、アンドロイドの顔の画像から細部を取り除くことで、有生性の認識と、不気味さの認識は減少した。

王は「このプロセス全体は複雑だが、一瞬で起きる」と説明。「私たちの研究結果からは、人はアンドロイドを見た瞬間にこれを擬人化するが、ミリ秒単位の間に違いを検知し、人間性を持たないものとして認知することが示された。この認識された有生性の減少が、不気味な感覚につながっている可能性が高い」と述べた。

研究チームは、今回の研究結果が重度の自閉症や一部の精神疾患がある人が人間と機械を見分けることができない「マインド・ブラインドネス」に関わるメカニズムの解明につながるかもしれないと指摘している。

編集=遠藤宗生

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