その当時、彼らが取り組んでいた課題は、マシンラーニングの学習に必要なデータ処理作業の効率化だった。AIモデルに学習をさせる場合、データのラベルづけが必要だが、手作業でそれを行うと膨大な時間とコストがかかり、それがAIの普及の妨げになっていた。
「ラベルづけの作業を自動化すれば劇的な進化が引き起こせると考えた」とRatnerは話す。
それから約5年をかけて彼らのチームはプロダクトの開発を行ない、「Snorkel AI」と呼ばれるスタートアップを設立し、AIラボからスピンアウトした。Snorkel AIは7月14日、合計1500万ドル(約16億円)の資金をシードラウンドとシリーズAで調達したことをアナウンスした。
同社に投資を行ったのはGreylock PartnersやGV(旧グーグルベンチャーズ)、米国のCIAが出資するベンチャーキャピタルのIn-Q-Telだ。
「大学で学んだ知識を学術分野のみで活かすのではなく、実際の世の中で役立てたいと思った。データのラベルづけを自動化することで、AIの利用範囲を今よりも広げていける」と、Snorkel AIのCEOとなったRatnerは語る。
同社の主要プロダクトであるSnorkel Flowは、AIプログラムの開発スピードを劇的に高めるプラットフォームだ。Snorkel Flowを用いれば、従来は手作業で行っていたデータのラベルづけを自動化できる。
対象となる分野としては医療や金融関連のデータがあげられる。例えば、放射線医師らはX線写真から病気の兆候を把握するが、このプロセスをAIアルゴリズムで自動化するためには、膨大な画像データを読み取って手作業でラベルづけを行う必要がある。
また、金融機関の審査プロセスを自動化する際にも、テキストやグラフなどのデータにラベルをつけて整理しなければならない。もちろん、その作業をアウトソースすることも理論的には可能だが、医療や金融関係のデータの読み取りには専門的な知識が必要だ。
Snorkel AIは、これらの外注が難しい分野のデータ処理を自動化するツールを提供し、収益を上げている。
大手銀行やフォーチュン500企業らが顧客
パロアルト本拠のSnorkel AIは現在20数人を雇用しており、昨年1月のシードラウンドで300万ドル、10月のシリーズAで1200万ドルを調達した。顧客名は非公開だが、米国のトップクラスの銀行2行と複数の政府機関、さらに複数のフォーチュン500企業が同社のプラットフォームを利用中だ。
Greylock PartnersでSnorkel AIへの出資を担当したSaam Motamediは、Snorkel AIのデータを中心に置くアプローチに魅力を感じ、即座に出資を決定したという。
「彼らの顧客らは、以前であれば数カ月かかっていた作業を、わずか数時間でこなせるようになった。データをプログラムで管理することでAIの利用範囲を大きく広げていける」とMotamediは話した。