アプリ開発者に大きなビジネスチャンスが訪れている
今回行われた研究調査にアップルが期待することはApp Store経済圏の実体把握以外にも、大きくふたつあると考えられる。
ひとつはアプリデベロッパの意欲をさらに引き出すことだ。App Storeのサービスが開始された当初、ストアに並ぶアプリはiOS向けのものが約500件ほどだった。現在ではiPhoneにiPad、Macをはじめとするアップルの各デバイスで利用できるアプリが200万以上も揃う。App Storeのサービスは世界175の国と地域に展開し、40カ国語の言語に対応している。毎週約5億人のユーザーが来訪し、モバイル決済を含む100以上の支払手段を活用しながら経済活動を行っている巨大マーケットに成長した。
Apple Watchも2019年から単体でApp Storeにつながり、アプリのダウンロードができるようになった。これにともないフィットネス系のアプリやサービスが増えている。
App Storeで発生した売り上げから、アップルが事業者から得る手数料の比率はわずかであるという。例えば2019年にApp Store経済圏が貢献したという5190億ドルの売上高のうち、利益の大半に上る85%以上はアプリ開発者と事業者に還元されてきたと、アップルは研究の結果を受ける形で説明している。
つまりアプリの開発者にとっては自身のアイデア次第で、App Store経済圏を基盤にして堅実なビジネスを展開・成功させるチャンスを獲得できるのだということをアップルは今回の発表から伝えたいのだろう。
現在アップルのデバイスに対応するアプリは世界2300万人を超えるデベロッパが、ソフトウェア開発のための統合開発環境である「Xcode」を利用しながら独自のプログラミング言語である「Swift」をベースに開発している。アップルのハードウェアとOSがシームレスに連携しながら、独自の機能やサービスを実現するためのAPI/SDKも各種用意されている。
WWDC20からの試みとして、若い学生プログラマーの活動を支援する「Swift Student Challenge」のコンペティションを実施。41の国と地域から参加した350名の入賞者がWWDCの開催直前に発表された。
最近の事例ではAR(拡張現実)のテクノロジーを活用するための独自フレームワークであるARKitに対応するアプリがApp Storeに出揃ってきた。これらをアップル独自開発のSoCである「Aシリーズ」を載せたiPhone、iPadやをはじめとする高パフォーマンスなデバイスで利用できる環境が整ってきたことから、App Store経済圏もいよいよ「仮想世界」の舞台に本格進出する可能性が見えてきた。
今年のWWDCではARKitに関連する新たな技術発表にも注目が集まりそうだ。テクノロジーを活かしながら、デベロッパが自由にビジネスチャンスを創造し、切り拓ける環境を今後もアップルが持続的に提供するという宣言が、今回のApp Store経済圏に関連するアナウンスに含まれているのではないだろうか。