リファラル採用を成功させるための秘訣
これから自社でリファラル採用を導入する場合、上に紹介したメリット・デメリットを踏まえて、どのような制度設計をすればよいのだろうか。
その手順や、具体的な運用方法について見ていこう。
導入前の準備
リファラル採用制度を設計する上でもっとも大切なのは、この仕組みのキーマンである紹介者=社員にとって協力したくなる制度にすることだ。
会社としての制度整備及び利用促進のための仕組み作り
会社の経営陣やエンゲージメントの高い社員など数人でプロジェクトチームを立ち上げ、上述のメリット・デメリットを踏まえ、その会社にとってどんな制度が効果的か議論し、設計していく。
まずパイロットとしてそのメンバー経由でリファラル採用を実際に1名行ってみるのが良いだろう。
一通りプロセスを回すことでその会社にあったものに近づける改善点が見つかるはずだ。
紹介者への動機付け(インセンティブ設計)
リファラル採用はKPIに採択して業務として既存役職員に課すことも可能だが、一般的にはインセンティブとして紹介者に一定の報奨金を出すことが多い。
金額は様々だが、外資系大手だと1件30~100万円程度、ベンチャー企業であれば10~30万円程度というケースが多く見受けられる。
この額は低すぎてもインセンティブとして効果が弱まるが、高すぎても経営を圧迫しかねないので、会社の財務状況と採用ニーズに応じて適切な金額を設定したいところだ。
また、金銭面以外でのインセンティブも重要だ。
社員にとってリファラル採用は、「自分が働いている会社を友人におすすめする」ことなので、会社・友人双方に対して良い縁になるかどうかを必ず判断する。
だからこそ、「会社のために大切な友人を紹介してくれてありがとう」のメッセージをきちんと表に出すことは大きな意味がある。紹介者は会社に貢献したと実感でき、さらにはもっと会社に貢献したい気持ちが高まるきっかけにもなる。
制度と意図のアナウンス
もちろん社員は「一緒に働きたい友人・知人」というフィルタリングをして紹介してくれるが、その基準が会社の求める人材像と合うかどうかは別だ。そのため、「求める候補者像の周知徹底」が肝要だ。
まず経営陣と既存社員とで、現状の把握と将来展望に対して必要な人材の解像度向上に取り組む必要がある。リファラル採用を始めるタイミングで、制度導入の背景やプロセスも含めて、全体説明会などを通じて対象者に発信していくのが良いだろう。
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事前にデメリット(注意点)への対策を
上で挙げたデメリットについても、問題が顕在化する前に対策をしておこう。各項目に沿って、取るべきアクションの例を紹介する。
採用する人材タイプの偏り
リファラル採用は社員の自発的な協力によって成り立つ制度なので、候補者を多く紹介してくれる社員とそうでない社員の差が出やすい。協力的な社員に対しては、採用担当から事前に求めている職種や人柄、経験などの希望についてすり合わせを行うことが一つの対策になる。
また、そもそも求める人物像が画一的になっていると、候補者の偏りが起きやすい。「カルチャーフィットするために最低限必要なマインド」があるのは事実だが、その定義を見つめ直すことも重要だ。紹介された候補者自体にはそれほど偏りがなくとも、選考基準が画一的になってしまっていないか、見直すと良いだろう。
その他にも、“フルタイム雇用や正社員を前提としない”リファラル採用も有効な手段だ。そうすることで、育児や介護をしながら働く社員、他社と掛け持ちで働く社員など、必然的に多様なワークスタイルを持った人材が集まりやすい。
紹介者からの誤った情報の伝達によるミスマッチの危険性
リファラル採用では、社員がリクルーターの役割を果たす。彼らへの“オリエン”が不十分であれば、求める人物像に合わない候補者がきてしまうのは、外部のエージェントを使う場合と同じだ。
具体的にできることとしては、広報担当と連携し、採用メッセージとインナーコミュニケーションの足並みを揃えることが挙げられる。社員とはいえ、自社をどう見ているかは一人ひとり異なる。そのため外向けのメッセージ発信だけでなく、社内でも「自社のことを理解してもらう」取り組みをし、個々が持つイメージのギャップを埋めていくことが大切だ。
社員の負担増
社員の協力度が高くなると、場合によっては過度な負荷がかかる可能性もある。そうした状況を緩和させるためには、「リファラル採用に必要な時間」を業務の一環と位置づけて、制度をつくることが解決策の一つになる。
例えば候補者と社員が会う際は、採用担当や所属部署のマネージャーに事前共有させ、その上で必要なランチ代・お茶代などを会社の経費と認め、営業時間内での面会も可とするなどの制度だ。こうすることで、会社として各社員がどのくらいの時間をリファラル採用に割いているかを把握できる。また、社員が闇雲に候補者に会いに行くことも減る。
ただし、その際、社員の協力で成り立つ制度であることを忘れないように注意が必要だ。候補者に会うたびに人事や上司へ報告するのが心理的なハードルになり、紹介に消極的になる懸念もある。このバランスは社内の人間関係にもよるが、会社としては「大切な友人・知人を候補者として紹介してくれてありがとう」というスタンスで社員の負荷を把握・管理すると良いだろう。
紹介者と被紹介者の間でのプライベートな問題の発生
デメリットの項目でも挙げたとおり、こうしたケースは毎回起きるわけではない。しかし、未然に防ぐという意味では、候補者・紹介者双方へのコミュニケーション方法を事前に想定しておくことが大切だ。
まず大切なのが、制度開始などのタイミングで「見るのは“現時点での会社との相性”であって、万一不採用でも、その候補者の人格や人間性がダメだからではない」という点を社員に周知することだ。また当然のことだが、仮に不採用でも紹介してくれた社員の不利益にならない旨も伝えておくと良いだろう。
選考過程においても、特にネガティブな判断になりそうな場合は、紹介者を介した「お断りの連絡」をすることは望ましくない。あくまで紹介者・候補者は友人関係であるため、その関係性が変わるような状況をできるだけ避けるように配慮することが、トラブル防止につながる。