──人の感性に訴えるという部分を今の企業が失っていて、感性と向き合う必要があるということでしょうか?
松永:企業は、トレンドに左右された思いつきではなく、ロジックの裏づけとして「地に足を着けた普遍性」が必要。だからこそ、偉大な過去を振り返り、先人から学ぶ温故知新の精神が何よりも大切だと思います!デザイン志向だからデザイナーを採用するという安易な発想でなない。一朝一夕では辿り着けない創業からの企業のアイデンティを把握するために深堀することが必要で、「過去に未来へのヒントあり」がキーワードではないかと思います。
──一般の人たちは?
山口:仮想空間上で仕事が完結するようになると物理的な感覚がなくなる。だから、トップダウンではなく、生活の体験から来る気付きは運動力の跳ね返りがあるのだと思います。この運動量が百聞は一見にしかずに結びつき、イノベーションのアクシデントが起こる。気付くことができる能力を引き出し、そこからイニシアティブを取る、つまり、動いて気付いて又動くといいうプロセスが大切なんです。
──課題をどのように解決できるか?
山口:経済的な合理性を無視して、市場システムから離れたところで、沢山運動して共感力を増やす。更に、市場原理に反して動いている人たちを敢えて邪魔せずにマイノリティーを応援する精神を培うようにして欲しい。
──起業家はアーティストのようなもので、気付いたことを広げたいという湧き上がる気持ちが業を起こす基本ということなのでしょうか?
松永:本当に好きなものを愛でる想いが必要で、トレンドに乗る必要はないし、だからデジタルトランスフォーメーションをやったふりをする必要もない。これからの企業はトップが素の状態になることが大切。アーティストは実は苦行僧です。迷いながら分岐点にぶつかったところで素の自分の気付きに行きつくのだと思います。
山口:突き動かされる衝動が大切。喜怒哀楽、悲しむ、喜ぶ、を外に出して自分を解放する。今まではそれをビジネスに持ち込むなと言われてきたが、これを敢えてビジネスに持ち込み、受け入れる心意気が企業理念に結びつく。自分の心のふたを外して自分と向き合う生き方をする。とにかく、自分を解放することが必要だと思いますね。
──社会を変えるには?
松永:キーワードは癒し、共感、そして創造力。本能で求める癒しはうそをつかない。そこに共感が生まれる。それが社会に広がり企業にもいく。素直になれる個や組織が大きな創造力を生み、新しい社会そして新しい世界を創り出していく。このうねりが次の時代に繋がっていく。僕はアフターコロナを前向きに考えているんです。
山口周◎独立研究者、著作家、パブリックスピーカー。現在はコーンフェリーのシニアパートナーを務めながら、研究、経営大学院での教職、各種ワークショップの実施、パブリックスピーキングなどに携わる。大学院で哲学・美術史を学んだという特殊な経歴を活かし「人文科学と経営科学の交差点」をテーマに活動を行っている。
松永エリック・匡史(まさのぶ)◎青山学院大学地球社会共生学部教授(国際ビジネス、デジタルイノベーション、クリエイティブ思考)、音楽家(ギタリスト)、アバナード株式会社デジタル最高顧問。デジタル時代のメディア&エンターテイメント業界に特化したビジネスコンサルタントとして、外資系コンサルファームでパートナーを歴任。現在は多岐の分野に於いて幅広い活動を展開している。