16世紀のイエズス会宣教師ルイス・フロイスは布教に訪れた日本について以下のように報告している(『ヨーロッパ文化と日本文化』(ルイス・フロイス著、岡田章雄訳注、岩波文庫))。ヨーロッパでは自分の欲する以上に飲酒しないし、しつこく勧めることもない。また、酒を飲んで前後不覚になるのは恥である。日本ではしつこく酒を勧め合って、酔っ払い、嘔吐する、と。
そうした、極端な大昔に比べれば、現代の私たちの飲酒は穏やかになっているはずだし、既に見てきたようにフロイスの言うところのヨーロッパ的な態度に今なお時代の空気は流れつつあり、その極に近づいている。
ただ「時代の流れがそうだからそうする」というのではあまりに消極的で、その態度は褒められたものではない。歴史とともに長く人類とともにあった酒の、その意義とはどんなものか、過度の飲酒は相手にどんな思いをもたらすか。そういった思いやりから、左党も右党も諸手を挙げて歓迎できる場を積極的に作っていくことが人間の道であり、ビジネスは本来その手助けになるべきものである。
「ゲコノミクス」とは、そうした優れて人間的な「宣言」である。
時代の風向きに人の思いを読み取り、それを実現するために思いに名前をつけ、健全なビジネスを立ち上げ、サービスに工夫を凝らしてお客さんの楽しみの舞台をつくる。まさしく商売の王道だ。
この本は飲食業に携わる人にとって必読と思う。これまで業界が必ずしも察知できてはいなかった、多様なニーズを鋭敏に嗅ぎ取り、それに応えるという、ビジネスに不可欠な要素をこの本の中に読み取ることができるだろう。