ここに挙げた例には、ある共通点がある。
この巨大な危機からうまく国を守るためには、ひとりの人間の力以上のものが必要になる。戦略的な対策を効果的にとれるかどうかは、指導者が、公衆衛生専門家や科学者の言葉に進んで耳を傾け、必要に応じて断固とした措置をとれるかどうかにかかっている。そうしたアプローチは、理論のうえでは必要性が明らかでも、実践するのはとても難しい。そして、ここで紹介した指導者たちは、 その独特な横断的スキルを持つという点で共通している。
上に挙げた指導者たちは、専門家の助言を積極的に受け、断固とした行動をとるのをためらわなかった。今回のような大規模な危機のときには、視野の広いリーダー、つまり、自国や自国民だけでなく、社会全体のために行動しなければならないと考えるリーダーが求められる(そもそも、そうした使命感を持たない指導者を選ぶ理由があるだろうか。いまこそ、それを考えてみるべきときではないだろうか?)。
アーダーンやフレデリクセンのような指導者を見ると、危機のときの強さとは、自分がこの分野の専門家ではないと認め、専門知識を持つ人の言葉に耳を傾けられる能力であることがわかる。そして、たとえ正しい方向だという確信がなくても、専門的なエビデンスにもとづいて行動するのをおそれない勇気も必要だ。そうした方針で国を率いるためには、独特なスタイルのリーダーシップが必要になる。弱さと断固とした強さを併せ持ち、共感的であると同時にタフでもあるリーダーシップだ。
こうしたリーダーシップのスタイルは、よく見かける「何でも知っており論破不可能なリーダー」というモデルと比べれば、あまり実践されていない。とはいえ、こうしたリーダーシップは女性独特のものというわけではない。もしかしたら今回のパンデミックは、このタイプのリーダーシップが可能であるというだけでなく、いまの世界ではそうしたリーダーシップがこれまでになく求められていることを浮き彫りにしているのかもしれない。